溺愛求婚〜エリート外科医の庇護欲を煽ってしまいました〜
──コンコン
「失礼します」
気持ちを切り替え個室のドアをノックする。中から返事はなかったけれど、私は恐る恐る引き戸を引いた。
柊会長はベッドの上で新聞を読んでおり、私を一瞥するとなにも言わずにすぐに視線を新聞へと戻した。
ピリピリとした嫌な空気が漂っていて居心地が悪い。またなにか言われるのではないかと思ったけど、無言のまま言葉を発することはない。
「傷を見せてもらってもいいですか?」
「ふんっ、勝手にしろ」
「はい、勝手にします。では、横になってください」
無愛想ながらも、会長は渋々私の言葉を聞いてくれた。傷口とガーゼへの出血の侵襲具合いを確認する。
「大丈夫そうですね、よかったです」
「思ってもいないことを口にするな。どうして俺なんかを助けたんだ?」
ぶっきらぼうな言い方だったけれど、その言葉から怒りは感じられなかった。
「どうしてって、目の前で苦しんでる人を放っておくことなんてできないからですよ」
「俺を恨んでいたんじゃないのか?」
「だからって、助けない理由にはなりません。それに私は別に柊さんを恨んでいるわけでもありませんから」
「……そうか」
珍しくしおらしい態度だった。驚いてポカンとする私に、会長は言葉を続ける。
「昨日、天音が面会にきた。弱ってる俺を見て、泣いて心配してくれたよ。男と逃げたことを許してほしいとも言っていた。好きなように生きることを許してくれって、悲しそうな顔で言ったんだ」
「そう、ですか」
天音さん、がんばったんだ。