溺愛求婚〜エリート外科医の庇護欲を煽ってしまいました〜
帰りの車内は恐ろしく静かで、来るときにはかかっていたはずの音楽もなく、ただ黙って窓の外に目を向けていると、アルコールの力も手伝って睡魔が襲ってきた。
ああ、ダメ──。
今日は疲れすぎた。
いい感じに車の振動が拍車をかける。眠りにつくのに、そう時間はかからなかった。
「着いたぞ」
「んっ……」
耳元で聞き覚えのある声がした。
遠慮がちに肩を叩かれたような気がして意識が戻ってくると、まだ重い瞼をそっと持ち上げる。
ここは、いったい?
頭も重く思考回路が正常に働かない。
目の前に見えるこの人は、いったい……。
「寝ぼけているのか?」
覗きこむようにぐっと顔を近づけ、目の前に迫った人影。
「す、すみません! 私ったら」
シートから背中を浮かせて飛び起きる。
わ、私ったら。
隙を見せてはいけない相手の前で寝るなんて、どうかしている。慌ててシートベルトを外し、車のドアに手をかけたとき、見知った風景であることに改めて驚いた。
「案内してくれたら、近くまで送って行く」
「い、いえ、大丈夫です」
ここは私が住む最寄りの地下鉄の駅のロータリーだ。