溺愛求婚〜エリート外科医の庇護欲を煽ってしまいました〜
「実家はこの近く?」
信号待ちで停車すると、ふわりと優しい口調で篠宮先生が尋ねた。
「ここから電車で二時間ほどの距離です」
車内で無言を貫くのもどうかと思って素直に答えた。
酔いはすっかり醒めていて、眠ったせいなのか頭はスッキリしている。
「二時間、か。それはまた遠いな」
快速電車で一時間半、普通電車なら二時間の距離のど田舎に私の地元はある。
ビル群が建ち並ぶ明るい都心とは違って、のどかで静かな場所だ。辺り一帯が山に囲まれていて、夏は涼しく冬は寒い。
車がないと不便な場所にあることから、若者は皆、大学進学とともに都会へ出ることが多く、例に違わず私もそのうちのひとりだった。
遊ぶ場所といえば田んぼや川。二十四時間営業ではないものの、かろうじてコンビニはあったが、学生が遊ぶようなカラオケやファミレスはなく、高校時代はコンビニ内の飲食スペースでよく時間を潰したものだ。
それも今となってはいい思い出。都会に慣れてしまった今、余計にそう思える。
「篠宮先生のご実家は、どちらなんですか?」
興味があったわけではないが、話のたねに何気なく振ってみた。
「港区の南麻布だ」
「み、南麻布……」