溺愛求婚〜エリート外科医の庇護欲を煽ってしまいました〜
土地だけで数億円はくだらないと言われている超高級住宅街だ。
車庫には高級外車がズラリと並び、年収億超えの選ばれた人しか住めないと、なにかのテレビ番組で言っていたのを聞いたことがある。
実家もまた、ハイスペックということか。ますます、気後れしてしまう。
うちの両親は夫婦ふたりでしがない小さな定食屋を経営していて、祖父の代から今も地元で多くの人に愛され続けている。
高齢化はしたものの、昔からの常連客が入れ替わり立ち替わり訪れていて、たまに実家に顔を出すと、お客さんまでもが私を温かく出迎えてくれた。
落ちこんでいるときはその温かさが心地よくて、新人時代にはよく実家に帰っていたっけ。私の住む世界とは、そういう場所なのだ。
「兄弟はいるのか?」
「あ、はい。兄がひとり……」
年齢は篠宮先生と同じで、大手商社勤めのエリート営業マン。すでに結婚していて、子どももいる。
「奇遇だな。俺にも兄がいるんだ」
「へえ、そうなんですか」
お兄様もさぞかしすごい人なんでしょうね。世の中とはそういうものだ。選ばれた人間と、そうでない者。
私と篠宮先生はそれにピッタリ当てはまる。帝都大に勤めていなければ関わることなんてなかっただろう。
「あ、そこのマンションです。自動販売機の前で大丈夫です」
そう伝えると車はゆっくり減速し始めた。