溺愛求婚〜エリート外科医の庇護欲を煽ってしまいました〜

なんというタイミングでの再会。

本来ならばニコリともしたくない相手だが、もういい大人なので私は無理にでも口元に笑みを貼りつける。

若干引きつっているような気もするけれど、なにぶん外は暗い。それに優が私のそんな変化に気づくはずもないのだから、今この瞬間だけは耐えろ。

それにしても、篠宮先生はなにを考えているの?

婚約者だと紹介したうえに、年内には籍を入れたいだなんて冗談にしては度がすぎる。

思わず突っ込みを入れてしまいそうになったが、違うと言ったところで、また一から全部説明するのも話がややこしくなるだけだ。

それに否定する気力もない。労力を使ってまで、そこまでする相手でもない。優はもう赤の他人なのだ。

お互い見つめ合ったまましばしの沈黙。早くなにか言わなければ、篠宮先生が不審がるかもしれない。

さすがの私でも、優にとって私が遊び相手だったことを篠宮先生に知られるのは嫌だ。

「どうも、婚約者の日下部です」

「え? あ、ど、どうも」

小さく会釈をしながら、なにを言っているのだろうと自分でも思う。けれど今は、篠宮先生の言葉に乗っかっていたいのが本音だ。

この人の前で惨めな自分を晒したくない。それは私のちっぽけなプライドで、優のことなんてもうなんとも思っていないという意思表示。

「時間がないから、そろそろ行くとするよ」

「あ、すみません。僕が声をかけたばっかりに。ではまた病院の方にお伺いさせていただきますので、今後ともぜひよろしくお願い致します」

優はペコリと一礼して車から離れる。

パーキングに入れていたギアをドライブに入れると、車は再び走り出した。

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