溺愛求婚〜エリート外科医の庇護欲を煽ってしまいました〜
今夜はきみといたいんだ
郊外から都心へと舞い戻ると、時刻はすでに二十二時半をすぎていた。音も振動もなく、ゆったりとしている車内にはシーンとした空気が流れている。
気まずいと感じているのは私だけだろうか。少なからず、篠宮先生は彼がなぜあそこにいたのかを気にしている。
優のことも気になるけれど、それ以上に気になるのはさっきの篠宮先生の発言だ。
「こ、婚約者だなんて、強引すぎますよ」
ムッとしながらそう口にすると、運転席からはフッと余裕たっぷりの微笑みが返ってきた。
「柚も乗っただろう?」
「そ、それは、そうなんですけど。でも」
「言ってしまったからには、真実にしなければならないな」
妖しい笑みを浮かべながらまっすぐにこちらを見据える。笑っているけどそう感じさせない瞳は、冗談なのか本気なのかわからない。
私に言うくらいなんだから、きっと誰にでも言っている。結婚相手なら、私なんかよりも他にもっと合う人がいるのに。
篠宮先生も、優みたいに私で遊びたいだけなのかもしれない。他に婚約者や本命がいて、私をからかって楽しんでいる。
優と出会った頃の私は身の程知らずだったけれど、今では自分の立ち位置というものがわかっているつもりだ。