溺愛求婚〜エリート外科医の庇護欲を煽ってしまいました〜
右腕についている有名ブランドの腕時計は、ブランドに疎い私でも知っているような高級品。篠宮先生は時間を確認すると、立ち上がり食器をまとめてシンクへ運ぶ。
「あと十分ぐらいで出られるか?」
「あ、はい。大丈夫です。ごちそうさまでした」
手を合わせながら、作ってくれた人の目を見てきちんと挨拶するのが私なりの礼儀。
「作ってくれた人に、ありったけの感謝の気持ちを込めながら言うんだよ」と、幼い頃から両親に口酸っぱくして言われてきた。
「それと、昨日もお礼を言えてませんでしたが、ごちそうさまでした」
「いや、俺が強引に誘ったんだ。当然だよ」
へえ、強引に誘ったという認識はあるんだ。
「不本意ではありますが、泊めさせてもらって、その上朝食まで」
「俺のワガママだ。柚が気にすることはない」
そんな顔で笑わないでほしい。昨日から起こっている突拍子もない出来事の全てを、許してしまいそうになる。
篠宮先生のことはよくわからないけれど、一緒にいて居心地がいいのも事実だ。だからこそ、たちが悪い。
十分後、マンションまで送ってくれるという強い申し出を拒否して、私は地下鉄の駅から電車を乗り継いで自宅に帰った。
見慣れた自分の部屋に帰ってくると、まるで夢から醒めたような感覚に陥る。