溺愛求婚〜エリート外科医の庇護欲を煽ってしまいました〜
「つ、疲れた」
上着だけ脱ぐとベッドに大の字で寝そべった。うーん、やっぱり自分の部屋のベッドが一番落ち着く。
今朝早かったせいか、ベッドに横になると睡魔が襲ってきてまぶたが下がってくる。気づくと眠りに落ちていた私は、次に目を覚まして驚いた。
すっかり日が暮れて外が薄暗くなっていたからだ。
嘘でしょ、貴重な休みを寝て過ごしてしまうなんてっ!
着替えもせずに帰ってきたときのままの格好で、気づけば夕方の十七時を回っている。なぜ目を覚ましたのかというと、頭元に置いていたスマホの音に気づいたから。
着信は未だ続いていてディスプレイを見ると『お母さん』の文字。
「あ、柚?」
寝ぼけ眼のまま電話に出ると、私が発するよりも先に声がした。
「やっと出た。さっきから何度も電話してるのに。仕事だったの?」
「え、ううん。休みで寝てた」
「あら、休みだったならたまには実家に顔を出しなさいよ。お父さんも心配してるんだからね? 元気にやってるの?」
「あはは、うん。また今度ね。元気だよ」
聞かれたことにだけ答える。お母さんは大衆食堂のどこにでもいるような普通のおばちゃんで、割烹着を着て店内を忙しなく動き回っているイメージ。
接客業のせいかテキパキしていて隙がなく、よく周囲を観察している。気が利いて頼りになるが、話し出すと止まらないところがある。
「それならよかったわ。あ、それとね、あんた今家? 今から渋谷に出て来なさい。和人と留美子さんと沙羅ちゃんがお待ちかねよ」