溺愛求婚〜エリート外科医の庇護欲を煽ってしまいました〜
結局十五分遅れで家を出たときには、外はもう完全に暗くなっていた。エントランスを出ると、そういえば昨日優が立っていたことを思い出す。
果たして私に用事だったのだろうか。わからないけれど、今さら話すことなんてないはずだ。もしかしたらたまたま通りかかっただけなのかもしれないから、あまり気にすることないかな。
ジーンズにミディアムブーツを履いて、上はベージュのトレンチコートを羽織った。肌寒いけれど、中に着込んでいるので体感温度はちょうどいい。
電車に揺られながらスマホを確認すると、お母さんから数回の着信と、昼頃にお兄ちゃんから連絡がきていたことに気づく。
『今日母さんがくるって。十七時半に渋谷のハチ公前に集合な』
うちではお母さんのいうことは絶対だ。だから予定が合うときは、よっぽど大事な用事じゃない限り、お兄ちゃんも私もこうして言われた通りの場所へ赴く。
お兄ちゃんの奥さんである留美子さんは気さくでいい人だし、五歳の姪っ子の沙羅ちゃんも、素直でかわいい。家族が揃うのも、こうしてお母さんがこなきゃなかなかないのも事実だから、いい機会だともいえる。
しばらくするとお兄ちゃんから再びスマホにメッセージが届いた。どうやらどこかのお店を予約していたらしく、お店の地図が添付されている。