溺愛求婚〜エリート外科医の庇護欲を煽ってしまいました〜
「あら、そんなことないわ。ほら、耳とか顎の形が和人の小さい頃にそっくり」
お母さんは孫の沙羅ちゃんに向かって優しく微笑む。娘の私の前では見せないとびっきりの笑顔だ。
「柚も早く結婚して、孫の顔でも見せてくれないかしらね」
出た、またその話。今年に入って、やたらと結婚のことをとやかく言われるようになった。
「お付き合いしてる人は? 早く身を固めなきゃ、一生ひとりよ?」
「放っておいてよ。私はまだ結婚なんていいの」
「なに言ってるの。私たちだって、いつまでも元気でいられるわけじゃないのよ。いつどうなるかわからないんだから、少しでも早く安心させてちょうだい」
ああ言えばこう言う。昔からお母さんには口で勝てた試しがない。
そういえばお父さんもお母さんも、少し見ない間に老けたな。白髪も多くなって、お父さんに至ってはシワも深くなった。
私と同じように、親も年を取っていくんだよね。わかっていたけど、年老いた両親を見て現実を突きつけられた気分。
早く安心させてあげたいのはやまやまだけど、残念ながらその相手が私にはいない。
一瞬篠宮先生の顔が頭に浮かんだけれど、ありえないと思い直して頭を左右に振った。
オーダーを取りにきた店員さんに注文して、ドリンクがすぐに運ばれてきた。グラスを交わし乾杯する。