溺愛求婚〜エリート外科医の庇護欲を煽ってしまいました〜
「そういえば、お父さん、さっきからだんまりだけど、どうかした?」
いつもは気のいいお父さんが、今日はやたらと静かなのが気になった。家族が揃う場で一番饒舌になるのは、他でもないお父さんなのだ。
「あ、いや、ちょっと疲れが出てるんだ」
「そうなのよ、お父さんったら。昨日、遅くまで飲んだりしてるから。二日酔いよ」
どうやら昨夜、お父さんは常連のお客さんたちと店を閉めたあとに飲みに出かけたらしかった。お腹をさすりながら、あははと愛想笑いを浮かべている。
額には脂汗が浮かんでいて、よっぽどツラいのだろうか。
「大丈夫? 無理しないでね」
「ああ、大丈夫だ」
そうは言っても料理にも口をつけず、飲み物だってひとくちも口にしなかった。お店を出る頃には顔色が真っ白で、ダラダラと冷や汗をかいていた。
さすがにこれはおかしい。
「ねぇ、お父さん──」
そう言いかけたとき、椅子から立ち上がったお父さんが私の目の前でバタンと倒れた。
「お、お父さん!?」
「父さん!?」
慌ててお父さんに駆け寄ると、顔をしかめながらお腹を押さえてうずくまっている。
「ちょ、ちょっと、大丈夫? 目を開けて!」
「う……っ」
痛そうに唸っており、呼びかける声も聞こえないのか、目が開くことはない。
この痛がりようは普通じゃない。さらに顔色は悪くなる一方で、だんだんと意識が朦朧としているのか全身の力が抜けていっているようだ。
「きゅ、救急車! お兄ちゃん、救急車!」
呆然と突っ立っていたお兄ちゃんはハッとしてスマホを取り出し、電話をかける。店員さんも異常を察したのか、慌てて走ってきた。