溺愛求婚〜エリート外科医の庇護欲を煽ってしまいました〜
けれど無理はない。慣れている私でさえ病状を聞かされて戸惑うのだから。
「お母さん、大丈夫?」
「え、ええ。混乱してしまって。ごめんなさいね」
「しゅ、手術というのはどういったものなんでしょうか?」
今度は青い顔をしたお兄ちゃんがそう訊ねる。
「簡単に言えば開腹して穿孔している部分を縫います。とにかく緊急事態ですので、同意書にサインをいただけたら、すぐにでもオペに入ります。詳しい説明は後ほど致しますので」
そばに立っていた爽子が同意書をお兄ちゃんの前に差し出す。けれど肝心のお兄ちゃんは青ざめたままだ。
「か、開腹手術、ですか」
「お兄ちゃん、落ち着いて。篠宮先生、父を、よろしくお願いします」
爽子の手からボールペンを受け取ると、さっと署名を済ませた。そして深く頭を下げる。
「大丈夫だよ、任せて」
「は、はい。お願いします」
難しい手術ではないけれど、身内が緊急手術を受けるとなるとどうしても不安は拭えない。ほとんど関わりのない先生よりも、篠宮先生でよかったと心から思う。
「主人を、主人をどうかよろしくお願いします」
お母さんも立ち上がって先生に頭を下げた。その目にはうっすらと涙が浮かんでいる。