溺愛求婚〜エリート外科医の庇護欲を煽ってしまいました〜
改めてちゃんと言われると、言葉に詰まってなにも言い返せなかった。
それから手術が終わるまでどんな話をしたのかは覚えていないけれど、あっという間だったような気がする。
とりあえず手術は成功。心配していた腹膜への影響はごく最小限で済んだということ、開腹しているので入院が必要になることを告げられた。
「じゃあ手続きを済ませてくるわね。柚、あんた、疲れたんなら帰ってもいいわよ。お母さん、病院に泊まるから」
手術が成功したと聞いて泣いて喜んだお母さんは、すっかりいつものお母さんの顔に戻っている。お父さんは麻酔から醒めてはいるけど、まだ意識が朦朧としているようだ。
もうしばらくすれば、麻酔は完全に醒めるだろう。
「柚、大丈夫か?」
術衣のまま、マスクで覆われた顔の下で篠宮先生が穏やかに笑う。消化器外科病棟の病室には、私とお父さん、篠宮先生の三人しかいない。
「は、はい。本当にありがとうございました」
「別に礼を言われるようなことはなにもしてないよ」
髪の毛を覆っていた帽子のせいか、前髪が左右にわかれて凛々しい眉がそこから覗いている。マスクを外した篠宮先生は、ふぅと大きな息を吐いた。