溺愛求婚〜エリート外科医の庇護欲を煽ってしまいました〜
どうやら入院の手続きが終わったらしく、手にたくさんの書類を抱えている。
私はうつむきながらさり気なく離れてお父さんのそばに立った。
まだ心臓がバクバクしてる。お母さんが戻ってこなかったら、どうなっていたんだろう。ダメダメ、とにかく冷静になろう。
「主人は私にとって大事な人だから、助けてもらってとても感謝してます。本当にありがとうございました」
「いえいえ、当然のことをしたまでですよ。もう大丈夫だと思うので、そばについていてあげて下さい」
感謝の意を伝えるお母さんに毅然とした態度で接するその姿は、さっきまでのものとはまるで別人だ。
「ええ、そうさせてもらいます。柚、あんたはどうするの?」
「あ、えと。私はお父さんが麻酔から醒めたら帰るよ。明日も仕事でここにくるし」
妙に意識してしまって篠宮先生の顔を見られない。そこにいるという気配だけで、心臓が飛び出してしまいそう。
気まぐれで出た言葉に決まっているんだから、本気にしちゃダメ。わかってるのに、私はまんまとドキドキしてしまっている。
「それでは僕は失礼します」
お母さんと私に目配せしたあと、ペコリと頭を下げてから篠宮先生は病室を出て行った。