溺愛求婚〜エリート外科医の庇護欲を煽ってしまいました〜
「篠宮先生、おはようございます」
看護師のはつらつとした声がして、病棟内が色めき立った。声のした方に目をやれば、白衣姿の篠宮先生の姿がある。
颯爽と廊下を歩く篠宮先生に誰もが皆釘付けになり、それは私も例外ではない。篠宮先生がくると病棟内がパッと明るく華やぐのだ。
現に篠宮先生目当ての看護師や病棟クラークの女性たちは、持ち場を離れて篠宮先生を取り囲んでいる。
「さすがハイスペックな色男はモテるなぁ。柚もあれくらい積極的にいかねぇと」
「な、なに言ってるの」
「篠宮先生なら、いつでも大歓迎なんだがな」
「なにが大歓迎よ、変なこと言わないで」
調子がいいお父さんはからかうように私を見やる。元気になったと思ったらすぐこれだ。
篠宮先生は爽やかな笑みを浮かべながらひとりひとりと挨拶を交わして、まだ話したそうにしている看護師たちから離れてこちらへと歩いてくる。
天窓から射し込む日差しが、より一層その魅力を引き立てている。
「おはようございます、日下部さん」
ニッコリ微笑みながらいつもとなんら変わりのないその笑顔。
「お、先生、おはようございます」
「調子はいかがですか?」
「見ての通り、元気ですよ」
アピールするかのように力こぶを作ってみせる現金なお父さん。
「それはよかったです」
「はっはっ、早く回復して店に戻らねーと。待っててくれるお客さんがたくさんいるからね」
「お店をされてるとおっしゃっていましたね。今度ぜひお伺いさせて下さい」
「ええ、うちの自慢の土手焼きをごちそうしますよ」
「へえ、それは楽しみですね」
社交辞令なのかよくわからないふたりのやり取り。お父さんは篠宮先生のことを気に入っているのか、とても嬉しそうだ。
よく見るとお父さんは白髪が増えたような気がする。身体も一回り小さくなって、昔はとても大きく見えた背中が今では丸まってしまっている。
いつまでも元気でいてくれるとは限らないんだよなぁ。