終われない青春
「長谷川先輩、今までありがとうございました。大学に行っても頑張ってください」
 今年度最後、つまりタクトが委員長として出席する最後の委員会が終わり、委員がみな去った後、サユリはタクトにお礼の言葉を言った。
「古葉さんこそ頼りない僕についてきてくれてありがとう。これからは、会計委員会の委員長として頑張ってね」
「いや、先輩と委員会の仕事をしてきた1年間、本当に楽しかったですよ」
 サユリは、タクトに対して密かに好意を抱いていた。これまでも、委員会の仕事で一緒にいるときに何度かシグナルを出してきた。しかし、鈍感なタクトは全く気づかなかった。
 委員会の連絡をするためにLINEを交換していたので、タクトの卒業後もサユリは委員会の仕事を教えてもらうという名目で、何度かタクトに連絡を取ったりもした。あるときは、それとなく恋心をにおわした文章を送ってみたこともある。しかし、タクトからの返信は期待外れなものばかりだった。
 大学生になり、忙しくなったタクトは、サユリのことなど忘れていた。大学生として初めての夏休みに入り、忙しさが一段落すると、ふと高校の後輩のことを思い出した。タクトは高校時代、数学研究会の会長を務めていた。全学年合わせて10人にも満たない小規模な研究会であったため、学年の垣根を超えてメンバー同士の仲が良かった。タクトには、1学年下の後輩が3人いる。勝負の夏を迎え受験勉強に勤しんでいる後輩たちに向けて、LINEで激励のメッセージを送ることを思いついた。3人の後輩に向けてメッセージを送信し、ふとトーク履歴に目をやると、古葉さんのアカウントが目に入った。そういえば、古葉さんも3年生だなと思い、かつての副委員長にもメッセージを送ることにした。とはいっても、数学研究会の後輩たちとは違い委員会のことでしか話したことがなかったので、文面に困った。結局、学校通信に出てくるような当りさわりのない文章を送った。

(長谷川先輩、ありがとうございます。先輩のメッセージに、とても励まされました。受験頑張ります)
 
 送信してから5分もたたないうちに、古葉さんから返信が送られてきた。LINEを送ったことで、逆に気を遣わせてしまったのかなと思った。心の中で、「古葉さん頑張れ」とつぶやいた。
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