花とバスケと浴衣と
千花は、雨宮准教授との出会いからしばらくして、日本語教師という職業について、調べてみた。外国人に日本語を教えるということ。日本にも、そういった学校や教室があり、また海外にもたくさん教室があること。日本語を学びたいという外国人がけっこう居て、ニーズはあるということ。今まで考えてもみなかったが、日本文化を広めることというのは、案外千花の興味をそそった。今までやってきたことが武器になるというのは、大きいなと千花は思っていたし、海外のどこという選択ができない千花にとって、今選ばなくて良いというのがとても魅力的だった。
地域専攻の説明会の日、千花は思い切って日本語教育のブースを尋ねてみた。ブースに居たのは雨宮準教授ではなく、もっと年配の男性教授だった。意外にも人気のブースで、その教授は綺麗な日本語講座を開いているらしく、その参加者がかなりいた。アナウンサー志望の学生は、皆そこに在籍しているらしい。
「君も、アナウンサー志望かい?」
教授に尋ねられ、千花は首を横に振った。
「いえ。日本語教師に少し興味があったので。」
「ほう、珍しいね。誰かに聞いたのかい?」
「雨宮先生とお話ししたことがあって、その時に、そういう職業があるってことを始めて知りました。」
「あぁ、雨宮君の知り合いか。そりゃぁ良い。しっかり頑張りなさい。」
「はい。ありがとうございます。」
「そうだ、ちょっとこれを読んで御覧。」
千花は渡された紙を受け取った。桃太郎の御話が書かれてある紙だった。
「音読してみて。」
言われた通り、千花は音読した。
「むかしむかし、あるところに、おじいさんとおばあさんがすんでいました。おじいさんは、山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯にいきました。」
「うんうん。滑舌もイントネーションも悪くない。君ならアナウンサー志望でも行けると思うがね。」
「ありがとうございます。でも、私、アナウンサーにはあまり興味がありません。」
千花がはっきり言うと、男性教授は微笑んで言った。
「君は良いね。自分をしっかり持っている。夢に向かってしっかり頑張りなさい。」
夢か…と千花は思った。私の夢は何だっただろう?未だはっきりと日本語教師が夢とは言い切れないが、教授にそう言われて、やってみたいなという気持ちになれた。

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