花とバスケと浴衣と
日曜日、あいにくの雨の中、駅前で類先輩と待ち合わせをし、デパートへと向かった。千花は、類先輩の隣に並んでもおかしくないように、雨なので、髪は広がらないようにハーフアップにして、白地に紺の花がらのワンピースに、薄い黄色のカーディガンを羽織り、足元は濡れても大丈夫な黄色いエナメルのパンプスを履いて出かけた。駅に着くと、先についていた類先輩が柱にもたれてスマホを見ていた。涼し気でシンプルな麻のシャツに色味の濃いジーパンと白いスニーカー。いつもと同じでカッコイイ。通り行く女性たちがチラチラと類先輩を見ている。そりゃ、見ちゃうよねーと千花は思いながら、一つ息を吐いて、類先輩に近づいた。
「すみません。おまたせしました。」
顔を上げた類先輩は、千花を見ると、綺麗に微笑んだ。
「こんにちは、千花ちゃん。雨の中ごめんね。」
「いえ。」
「じゃぁ行こうか。」
千花が頷くと、類先輩は地下道へと向かって歩き出した。類先輩を見失わないように、一歩後ろをついて歩いていると、突然後ろを振り返り、類先輩が立ち止まった。
「千花ちゃんって、いつもそうなの?」
「何がですか?」
「隣じゃなくてちょっと後ろ歩くの。」
「無意識なんですけど、多分癖です。基本的に道覚えられないから、いつも誰かについていく感じで…。」
プッと吹き出す音が聞こえて、千花が類先輩を見ると、笑いを堪え切れずに吹き出した顔の類先輩がいた。そんなに笑うことかな?と思いながら、千花は言った。
「そんなに笑わなくても良いじゃないですか。」
「ごめんごめん。ちょっと予想外の答えでさ。」
「え?」
「オレと二人だから緊張して後ろ歩いてんのかなって思ってたから。まさか迷子になるからって理由だとは思わなくて。」
「迷子になるとは言ってませんよ。」
「道覚えられないって一緒でしょ。」
まだ可笑しそうに笑う類先輩を見て、千花は確かにそうかなと思いながら、緊張してたのも事実だなと思いながら笑った。
「まぁそうなんですけど…本当はちょっと緊張もしてました。でも楽しみにもしてました。」
「それなら良かった。迷子になるなら手繋いどこうか?」
明らかに小馬鹿にした様子で手を出す類先輩に、千花は軽く睨んで言った。
「類先輩完全にバカにしてますね…。」
「ははは。そんなつもりはないけど。二人なんだから隣歩いてくれないと話しづらいよ。」
「それもそうですね。」
千花は笑いながら類先輩の隣に立った。ウンウンと頷く類先輩は、手を差し出したが、千花は
「だから、大丈夫ですって。」と笑った。類先輩は、
「そう?残念。」と笑って歩き出した。千花は今度は遅れないように少し緊張しながら類先輩の隣を歩いた。
デパートの中は人が多く混み合っていたが、お目当ての呉服店はそれほど人がいなかった。こういうお店って少し入りにくいな…と少しビビりながら千花は思ったが、類先輩は、平気な様子でずんずんと奥へ入っていった。遅れないように類先輩についていくと、店員さんが寄ってきた。
「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」
「浴衣を見たいのですが。」
「浴衣ですか。出来合いのものはあちらに、反物はそちらにございます。」
「ありがとうございます。少し見せてもらいます。」
物怖じせず、堂々とした態度の類先輩に、千花はすごいなと思った。
「とりあえず、出来合いのから見てみようか?」
千花が頷くと、類先輩は迷わず浴衣がかかっているコーナーへ行った。
「千花ちゃんはどんなのが良いとかある?」
「そうですね…とりあえず、ピンクはないなって思ってるんですけど。後はあんまり解らなくって。」
類先輩は、千花を上から下まで観察して、
「うん。今日の色味は似合ってるね。紺も白も、黄色も。この中だったら、コレとか、コレかな?」
二枚の浴衣を指して言った。白地に紺の模様の浴衣と、紺地に黄色の模様の浴衣で、確かに今日の色味とよく似ている。
「でも…なんかいまいちピンとこないな…。反物の方、見に行ってみよう。」
言われるままに、千花は類先輩について反物のコーナーへ行った。類先輩は手慣れた手つきで女性用の反物を少し広げながら、千花の顔を見て、あーでもない、こーでもないと言っている。近づいてきた店員が千花に向って言った。
「お客様の浴衣をお探しですか?」
「はい。」
「二人で浴衣を着たいんです。」
類先輩が被せて言うと、店員は驚いた顔をして、その後微笑んで、
「まぁ、素敵なカップルですね。」と言った。類先輩は、綺麗に微笑み返して言った。
「彼女のを先に決めたいんです。」
「お客様は肌が白くて可愛らしいお顔立ちをされていますから、どんなものでもお似合いになるかと思いますが。」
「あまりありきたりじゃない方が良いんですけど。」
「そうですね…モダンなものだと、この辺りの柄は最近出てきたものですね。」
出されたチェック柄は確かに浴衣らしくないものだった。
「うーん。オレは花柄の方が千花ちゃんらしいと思うんだけど。」
「花柄ですか…でしたら、そうですねー。」
店員さんは反物を出し入れしながら、確認し、ベージュ地に橙色の花がらの反物を出してきた。ぱっと見て可愛いな、と千花は思った。店員さんが千花の首元に反物をあてがうのを見て、類先輩は頷いた。
「うん。これ良いんじゃない?千花ちゃんらしくて。」
「よくお似合いになるかと思います。」
二人に見つめられ、千花も頷くと、
「じゃぁこれで。帯は何色が合うかな?緑とか紺とか?」
「そうですね。半帯なら、こういった二色のものもございますし、最近はこういった柔らかいものもでております。」
次々と出て来る帯を、反物に合わせながら、あぁでもない、こうでもないと言いつつ、類先輩の意見を元に、濃い緑と紺色の裏表の半帯を選んだ。類先輩は反物の中から、濃紺にグレーで細いストライプの入ったシックな反物を選び、帯は、千花の花柄の中に使われている色と同じものをということで、山吹色の角帯を選んだ。
「お仕立させて頂きますので、採寸をさせていただきましょうか?」
店員が言うと、類先輩が言った。
「仕立てはやってくれる人がいるんで、反物と帯だけで結構です。」
そうなの?と思いながら、千花が類先輩を見ると、
「ばあちゃんがやってくれるって。和裁の先生だったんだ。浴衣くらいならすぐ縫えるって。」
「そうなんですか。では、このままお包み致しますね。」
と店員さんは反物2本と帯を包みにいった。
「千花ちゃん、あっちに髪留めとかあったからちょっと見てきたら?」類先輩に言われ、千花は言われるままに髪留めを見に行った。可愛らしいかんざしや、ちりめんのヘアピンなど、色々とあった。さっきの浴衣に合わせるなら、シンプルな物がいいなと思いながら、濃紺の陶器の丸い飾りがついたかんざしを見つけた。可愛いけど、千花の今の髪色にはあまり似合わない。アップのほうが良いだろうなと思いながら、夜会巻きみたいな感じか、それとも…色々考えていると、類先輩が寄ってきた。
「何か良いのあった?」
「いえ、特には。」
「そう?じゃぁ行こうか。」
いつの間にか会計を済ませていた類先輩は反物の入った紙袋をリュックに入れて言った。
「え?会計は?」
「もう済んだよ。」
「あ、そうだったんですか。すみません。ありがとうございます。後で私の分教えてください。」
「ありがとうございました。」
店員の丁寧な挨拶に軽く会釈をしながら、類先輩の隣に並ぶと、
「とりあえず、良いのがあって、決まって良かったね。」
「はい。類先輩が選んでくれて良かったです。」
「千花ちゃんはピンク系よりもオレンジ系のイメージだからさ。似合うのがここにあって良かったよ。あとは、ばあちゃんにコレ渡して、千花ちゃんの分は採寸してもらわなきゃいけないか…。」
「あぁ、そうですよね。でも、私の分までおばあさまに縫って頂いて良いんですかね?」
「心配しないで。ばあちゃんは雨宮准教授みたいなことはないから。」
「え?」
「ちゃんと友達の分もお願いって言ってあるし。」
「そうなんですか。」
「とりあえず、どっかで飯食ってから行こっか。」
「どこにですか?」
「ばあちゃんち。採寸してもらわなきゃいけないし。」
「え?今日行くんですか?」
「早いほうが良いかなと思うんだけど、この後何かある?」
「いえ、そういうことじゃないんですけど…心の準備が…。」
「心配しないでいいよ。千花ちゃんはそのままでいいんだから。」
「じゃぁ、とりあえず、地下に降りてもいいですか?」
「ん?」
「せめて手土産ぐらい買わせて下さい。」
「そんなの気にしなくていいのに…。でも、甘いものは好きだから喜ぶかも。」
「どんな物が良いかわからないんで、類先輩が選んでくださいね。」
二人で地下に降りて、スイーツコーナーを見た。洋菓子よりも和菓子がいいだろうと、和菓子コーナーを見て、小さなたい焼きと綺麗な練りきりのお菓子を3つ買った。
「すみません。おまたせしました。」
顔を上げた類先輩は、千花を見ると、綺麗に微笑んだ。
「こんにちは、千花ちゃん。雨の中ごめんね。」
「いえ。」
「じゃぁ行こうか。」
千花が頷くと、類先輩は地下道へと向かって歩き出した。類先輩を見失わないように、一歩後ろをついて歩いていると、突然後ろを振り返り、類先輩が立ち止まった。
「千花ちゃんって、いつもそうなの?」
「何がですか?」
「隣じゃなくてちょっと後ろ歩くの。」
「無意識なんですけど、多分癖です。基本的に道覚えられないから、いつも誰かについていく感じで…。」
プッと吹き出す音が聞こえて、千花が類先輩を見ると、笑いを堪え切れずに吹き出した顔の類先輩がいた。そんなに笑うことかな?と思いながら、千花は言った。
「そんなに笑わなくても良いじゃないですか。」
「ごめんごめん。ちょっと予想外の答えでさ。」
「え?」
「オレと二人だから緊張して後ろ歩いてんのかなって思ってたから。まさか迷子になるからって理由だとは思わなくて。」
「迷子になるとは言ってませんよ。」
「道覚えられないって一緒でしょ。」
まだ可笑しそうに笑う類先輩を見て、千花は確かにそうかなと思いながら、緊張してたのも事実だなと思いながら笑った。
「まぁそうなんですけど…本当はちょっと緊張もしてました。でも楽しみにもしてました。」
「それなら良かった。迷子になるなら手繋いどこうか?」
明らかに小馬鹿にした様子で手を出す類先輩に、千花は軽く睨んで言った。
「類先輩完全にバカにしてますね…。」
「ははは。そんなつもりはないけど。二人なんだから隣歩いてくれないと話しづらいよ。」
「それもそうですね。」
千花は笑いながら類先輩の隣に立った。ウンウンと頷く類先輩は、手を差し出したが、千花は
「だから、大丈夫ですって。」と笑った。類先輩は、
「そう?残念。」と笑って歩き出した。千花は今度は遅れないように少し緊張しながら類先輩の隣を歩いた。
デパートの中は人が多く混み合っていたが、お目当ての呉服店はそれほど人がいなかった。こういうお店って少し入りにくいな…と少しビビりながら千花は思ったが、類先輩は、平気な様子でずんずんと奥へ入っていった。遅れないように類先輩についていくと、店員さんが寄ってきた。
「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」
「浴衣を見たいのですが。」
「浴衣ですか。出来合いのものはあちらに、反物はそちらにございます。」
「ありがとうございます。少し見せてもらいます。」
物怖じせず、堂々とした態度の類先輩に、千花はすごいなと思った。
「とりあえず、出来合いのから見てみようか?」
千花が頷くと、類先輩は迷わず浴衣がかかっているコーナーへ行った。
「千花ちゃんはどんなのが良いとかある?」
「そうですね…とりあえず、ピンクはないなって思ってるんですけど。後はあんまり解らなくって。」
類先輩は、千花を上から下まで観察して、
「うん。今日の色味は似合ってるね。紺も白も、黄色も。この中だったら、コレとか、コレかな?」
二枚の浴衣を指して言った。白地に紺の模様の浴衣と、紺地に黄色の模様の浴衣で、確かに今日の色味とよく似ている。
「でも…なんかいまいちピンとこないな…。反物の方、見に行ってみよう。」
言われるままに、千花は類先輩について反物のコーナーへ行った。類先輩は手慣れた手つきで女性用の反物を少し広げながら、千花の顔を見て、あーでもない、こーでもないと言っている。近づいてきた店員が千花に向って言った。
「お客様の浴衣をお探しですか?」
「はい。」
「二人で浴衣を着たいんです。」
類先輩が被せて言うと、店員は驚いた顔をして、その後微笑んで、
「まぁ、素敵なカップルですね。」と言った。類先輩は、綺麗に微笑み返して言った。
「彼女のを先に決めたいんです。」
「お客様は肌が白くて可愛らしいお顔立ちをされていますから、どんなものでもお似合いになるかと思いますが。」
「あまりありきたりじゃない方が良いんですけど。」
「そうですね…モダンなものだと、この辺りの柄は最近出てきたものですね。」
出されたチェック柄は確かに浴衣らしくないものだった。
「うーん。オレは花柄の方が千花ちゃんらしいと思うんだけど。」
「花柄ですか…でしたら、そうですねー。」
店員さんは反物を出し入れしながら、確認し、ベージュ地に橙色の花がらの反物を出してきた。ぱっと見て可愛いな、と千花は思った。店員さんが千花の首元に反物をあてがうのを見て、類先輩は頷いた。
「うん。これ良いんじゃない?千花ちゃんらしくて。」
「よくお似合いになるかと思います。」
二人に見つめられ、千花も頷くと、
「じゃぁこれで。帯は何色が合うかな?緑とか紺とか?」
「そうですね。半帯なら、こういった二色のものもございますし、最近はこういった柔らかいものもでております。」
次々と出て来る帯を、反物に合わせながら、あぁでもない、こうでもないと言いつつ、類先輩の意見を元に、濃い緑と紺色の裏表の半帯を選んだ。類先輩は反物の中から、濃紺にグレーで細いストライプの入ったシックな反物を選び、帯は、千花の花柄の中に使われている色と同じものをということで、山吹色の角帯を選んだ。
「お仕立させて頂きますので、採寸をさせていただきましょうか?」
店員が言うと、類先輩が言った。
「仕立てはやってくれる人がいるんで、反物と帯だけで結構です。」
そうなの?と思いながら、千花が類先輩を見ると、
「ばあちゃんがやってくれるって。和裁の先生だったんだ。浴衣くらいならすぐ縫えるって。」
「そうなんですか。では、このままお包み致しますね。」
と店員さんは反物2本と帯を包みにいった。
「千花ちゃん、あっちに髪留めとかあったからちょっと見てきたら?」類先輩に言われ、千花は言われるままに髪留めを見に行った。可愛らしいかんざしや、ちりめんのヘアピンなど、色々とあった。さっきの浴衣に合わせるなら、シンプルな物がいいなと思いながら、濃紺の陶器の丸い飾りがついたかんざしを見つけた。可愛いけど、千花の今の髪色にはあまり似合わない。アップのほうが良いだろうなと思いながら、夜会巻きみたいな感じか、それとも…色々考えていると、類先輩が寄ってきた。
「何か良いのあった?」
「いえ、特には。」
「そう?じゃぁ行こうか。」
いつの間にか会計を済ませていた類先輩は反物の入った紙袋をリュックに入れて言った。
「え?会計は?」
「もう済んだよ。」
「あ、そうだったんですか。すみません。ありがとうございます。後で私の分教えてください。」
「ありがとうございました。」
店員の丁寧な挨拶に軽く会釈をしながら、類先輩の隣に並ぶと、
「とりあえず、良いのがあって、決まって良かったね。」
「はい。類先輩が選んでくれて良かったです。」
「千花ちゃんはピンク系よりもオレンジ系のイメージだからさ。似合うのがここにあって良かったよ。あとは、ばあちゃんにコレ渡して、千花ちゃんの分は採寸してもらわなきゃいけないか…。」
「あぁ、そうですよね。でも、私の分までおばあさまに縫って頂いて良いんですかね?」
「心配しないで。ばあちゃんは雨宮准教授みたいなことはないから。」
「え?」
「ちゃんと友達の分もお願いって言ってあるし。」
「そうなんですか。」
「とりあえず、どっかで飯食ってから行こっか。」
「どこにですか?」
「ばあちゃんち。採寸してもらわなきゃいけないし。」
「え?今日行くんですか?」
「早いほうが良いかなと思うんだけど、この後何かある?」
「いえ、そういうことじゃないんですけど…心の準備が…。」
「心配しないでいいよ。千花ちゃんはそのままでいいんだから。」
「じゃぁ、とりあえず、地下に降りてもいいですか?」
「ん?」
「せめて手土産ぐらい買わせて下さい。」
「そんなの気にしなくていいのに…。でも、甘いものは好きだから喜ぶかも。」
「どんな物が良いかわからないんで、類先輩が選んでくださいね。」
二人で地下に降りて、スイーツコーナーを見た。洋菓子よりも和菓子がいいだろうと、和菓子コーナーを見て、小さなたい焼きと綺麗な練りきりのお菓子を3つ買った。