花とバスケと浴衣と
5. 適度な距離
お祖母様の家を出ると雨が止んでいた。エレベーターから降りて、駅方面へ向かって類先輩の隣を歩いていると、類先輩が話しかけた。
「ばあちゃんに何か言われた?」
「何かって…?」
「採寸してた時。」
「あぁ、彼女を連れてきたのは初めてだっておっしゃってたので、彼女じゃなくて後輩だって説明しておきました。」
「あぁ、ごめん。友達だって言ったんだけど。」
「女の子連れてきたのは初めてだって。」
「まぁ、確かに。後は何か言われた?」
「えっと…。同じ笑い方するのねって言われました。」
「えっ…。そっか。やっぱりばあちゃんにもそう見えたのか。」
「どういうことですか?」
千花が類先輩を見上げると、類先輩はフッとわらって、
「千花ちゃん、もう少し時間大丈夫?」と聞いた。千花が頷くと、類先輩は行き先を変えたようで、駅から離れた道へ進んだ。落ち着いた雰囲気のカフェの前で、
「ここのコーヒー美味しいんだ。」と類先輩は言って、カランカランとベルが鳴るドアを開けて店内へ入った。入った瞬間コーヒーのいい香りが漂っていて、千花は思わず大きく息を吸い込んだ。
「いい香りですね。」
「オレの癒やしスポット。」
ニコッと微笑んだ類先輩について、案内された席に向かい合って座った。オリジナルのブレンドコーヒーを二つ注文し、店内をキョロキョロと見渡していると、目の前の類先輩がクスッと笑った。
「すみません。なんかキョロキョロしちゃって。」
「いや、千花ちゃん可愛いなと思って。」
優しい微笑みを向けて呟く類先輩の言葉に、千花は思わず何を言うんだこの人はと、固まってしまった。千花の様子を見て、
「ごめんごめん。そんなに固まらないでよ。千花ちゃん可愛いなんて言われ慣れてるでしょ?」
「全然言われ慣れてなんかないですよ。類先輩じゃないんですから。」
千花が頬を赤くして言っていると、店員さんがコーヒーを運んできた。フワッと芳しい香りを感じ、千花は口を閉じて、もう一度大きく息を吸い込んだ。店員さんが二人の前にそれぞれカップを置いて、一礼して去っていった。千花は早く飲んでみたくて、類先輩を見ると、ばっちり目があってしまった。驚いた表情をする千花に、
「どうぞ。飲んでみて。」と類先輩は言った。千花は
「いただきます。」と言ってカップを持ち上げ、もう一度香りを味わってから、少しだけ口へ入れた。口に入れた瞬間にコーヒー独特の香りが体中に広がる感じがした。スッキリとした苦味でとても美味しい。
「…美味しい。」思わずこぼれた言葉に、類先輩は綺麗に微笑んで、
「千花ちゃんの口にあって良かったよ。」と言った。千花はもう一口飲んで、味を確かめ、やっぱり美味しいと思った。類先輩も一口、二口と飲んで、カップを置いて、ホッとした表情を見せた。
「ここに誰かを連れてきたのも初めてだな。」
カップを見つめながら突然話しだした類先輩に、千花は驚きながらも、カップを置き姿勢を正して聞く体勢に入った。
「千花ちゃんと初めて一緒に学食でご飯食べた時にさ、オレも思ったんだ。」千花は何をだろう?と思いながら類先輩を見ると、顔を上げた類先輩が言った。
「この子の笑い方、オレに似てるなって。」
「えっ?」
「可愛い顔して綺麗に微笑むんだけど、何か何処か諦めたみたいな顔で笑うんだ。」千花は、ドキッとした。諦めたみたいな顔で笑う。そんな風に見えていたのか…。
「あの時、千花ちゃん正直に話してくれたでしょ?人に興味を持ったのが初めてだったから、話してみたかった。確かめたかったって。何を確かめたかったのか自分でもわからないけどって…。」そういえば、中途半端な告白をしたことを思い出した。類先輩と付き合えるなんて思っていなくて、ただ、どんな人なのか知りたいと思って近づいたこと。いざ本人を目の前にして、諦めた気持ちになりながらも、話せて嬉しかったことを千花は思い出した。
「不思議な子だなって思った。昨日友達を守るためにあんな強面のフジさんに噛み付いたのに、今日は諦めたみたいに綺麗に笑っててさ。この子のこと知りたいなって思ったんだ。」
「え?」
「千花ちゃんも言ってたけどさ、オレも、ほとんど話したこともない人に、突然好きですって言われて、戸惑いながらも付き合うっていうパターンを結構繰り返しててね。彼女には合わせる努力をしてきたし、同じように好きになりたいとも思ってたけど、いつの間にか無理しちゃってて、相手からの要求に答えきれなくなって別れるって繰り返しでさ。」
苦笑いを浮かべる類先輩を見て、同じだなと千花は思った。
「千花ちゃんも同じでしょ?」
千花が頷くと、
「オレは、何かもう面倒になっちゃってさ。ガンガン来られても、適当にあしらうことしかできなくなってた。」
その気持も何となくわかる。類先輩ぐらいかっこよければ、ガンガン来られることの方が多いのだろうと千花は思った。
「で、そんな時に、初めてもっと知りたいなって子が現れた。でもさ、その子は、話してみたいって近づいてきたのに、一回二人で話しただけで満足したのか、それともイメージしてたのと違ったのか、それ以来、全く連絡くれなくなってさ。ちょっと凹んだ。」
「えぇ?」
少し笑いながら言う類先輩を、驚いた顔で千花が見ると、
「でも、偶々会って話しかけたら、嬉しそうな顔するのに、やっぱりオレに似た諦めた顔で笑うんだ。でも、話してるうちに色んな表情を見せてくれてさ、可愛いなってもっと話したいなって思ったんだ。」
突然の告白に、千花は声が出せなかった。類先輩はフッと笑って言った。
「千花ちゃんは、オレとは付き合えないって思ってるでしょ?」
図星だったので答えられずにいると、
「責めるつもりはないんだ。オレもそう思ってたしね。彼女になりたいって思ってないのわかってたから、オレも千花ちゃんにカップル役頼んだわけだしさ。」
やっぱりそうだったのか、と千花はホッと肩の力を抜いた。類先輩はクスっと笑って言った。
「今明らかにホッとしたでしょ。」
千花は少し気まずいなと思いながらも、正直に頷いた。
「よくよく考えたらさ、今までこうやって、自分が一番落ち着くところとか、大事に思ってる人とかを誰かに紹介したことってなかったなって思って…。」
類先輩はオープンな人なのかなと思っていたので、千花は驚いた。
「似てるって思ってるからかな?千花ちゃんには何か話したくなっちゃうんだよね…。」
少し照れた表情で話す類先輩を見て、千花も答えた。
「何か…嬉しいです。そういうの。何て言ったら良いかわからないですけど、私も類先輩が色んなこと話してくれて、教えてくれて、嬉しいです。類先輩のこともっと知りたいなって思ってたから。」
類先輩は、綺麗に笑って
「ありがとう。」と言った。
お祖母様の家を出ると雨が止んでいた。エレベーターから降りて、駅方面へ向かって類先輩の隣を歩いていると、類先輩が話しかけた。
「ばあちゃんに何か言われた?」
「何かって…?」
「採寸してた時。」
「あぁ、彼女を連れてきたのは初めてだっておっしゃってたので、彼女じゃなくて後輩だって説明しておきました。」
「あぁ、ごめん。友達だって言ったんだけど。」
「女の子連れてきたのは初めてだって。」
「まぁ、確かに。後は何か言われた?」
「えっと…。同じ笑い方するのねって言われました。」
「えっ…。そっか。やっぱりばあちゃんにもそう見えたのか。」
「どういうことですか?」
千花が類先輩を見上げると、類先輩はフッとわらって、
「千花ちゃん、もう少し時間大丈夫?」と聞いた。千花が頷くと、類先輩は行き先を変えたようで、駅から離れた道へ進んだ。落ち着いた雰囲気のカフェの前で、
「ここのコーヒー美味しいんだ。」と類先輩は言って、カランカランとベルが鳴るドアを開けて店内へ入った。入った瞬間コーヒーのいい香りが漂っていて、千花は思わず大きく息を吸い込んだ。
「いい香りですね。」
「オレの癒やしスポット。」
ニコッと微笑んだ類先輩について、案内された席に向かい合って座った。オリジナルのブレンドコーヒーを二つ注文し、店内をキョロキョロと見渡していると、目の前の類先輩がクスッと笑った。
「すみません。なんかキョロキョロしちゃって。」
「いや、千花ちゃん可愛いなと思って。」
優しい微笑みを向けて呟く類先輩の言葉に、千花は思わず何を言うんだこの人はと、固まってしまった。千花の様子を見て、
「ごめんごめん。そんなに固まらないでよ。千花ちゃん可愛いなんて言われ慣れてるでしょ?」
「全然言われ慣れてなんかないですよ。類先輩じゃないんですから。」
千花が頬を赤くして言っていると、店員さんがコーヒーを運んできた。フワッと芳しい香りを感じ、千花は口を閉じて、もう一度大きく息を吸い込んだ。店員さんが二人の前にそれぞれカップを置いて、一礼して去っていった。千花は早く飲んでみたくて、類先輩を見ると、ばっちり目があってしまった。驚いた表情をする千花に、
「どうぞ。飲んでみて。」と類先輩は言った。千花は
「いただきます。」と言ってカップを持ち上げ、もう一度香りを味わってから、少しだけ口へ入れた。口に入れた瞬間にコーヒー独特の香りが体中に広がる感じがした。スッキリとした苦味でとても美味しい。
「…美味しい。」思わずこぼれた言葉に、類先輩は綺麗に微笑んで、
「千花ちゃんの口にあって良かったよ。」と言った。千花はもう一口飲んで、味を確かめ、やっぱり美味しいと思った。類先輩も一口、二口と飲んで、カップを置いて、ホッとした表情を見せた。
「ここに誰かを連れてきたのも初めてだな。」
カップを見つめながら突然話しだした類先輩に、千花は驚きながらも、カップを置き姿勢を正して聞く体勢に入った。
「千花ちゃんと初めて一緒に学食でご飯食べた時にさ、オレも思ったんだ。」千花は何をだろう?と思いながら類先輩を見ると、顔を上げた類先輩が言った。
「この子の笑い方、オレに似てるなって。」
「えっ?」
「可愛い顔して綺麗に微笑むんだけど、何か何処か諦めたみたいな顔で笑うんだ。」千花は、ドキッとした。諦めたみたいな顔で笑う。そんな風に見えていたのか…。
「あの時、千花ちゃん正直に話してくれたでしょ?人に興味を持ったのが初めてだったから、話してみたかった。確かめたかったって。何を確かめたかったのか自分でもわからないけどって…。」そういえば、中途半端な告白をしたことを思い出した。類先輩と付き合えるなんて思っていなくて、ただ、どんな人なのか知りたいと思って近づいたこと。いざ本人を目の前にして、諦めた気持ちになりながらも、話せて嬉しかったことを千花は思い出した。
「不思議な子だなって思った。昨日友達を守るためにあんな強面のフジさんに噛み付いたのに、今日は諦めたみたいに綺麗に笑っててさ。この子のこと知りたいなって思ったんだ。」
「え?」
「千花ちゃんも言ってたけどさ、オレも、ほとんど話したこともない人に、突然好きですって言われて、戸惑いながらも付き合うっていうパターンを結構繰り返しててね。彼女には合わせる努力をしてきたし、同じように好きになりたいとも思ってたけど、いつの間にか無理しちゃってて、相手からの要求に答えきれなくなって別れるって繰り返しでさ。」
苦笑いを浮かべる類先輩を見て、同じだなと千花は思った。
「千花ちゃんも同じでしょ?」
千花が頷くと、
「オレは、何かもう面倒になっちゃってさ。ガンガン来られても、適当にあしらうことしかできなくなってた。」
その気持も何となくわかる。類先輩ぐらいかっこよければ、ガンガン来られることの方が多いのだろうと千花は思った。
「で、そんな時に、初めてもっと知りたいなって子が現れた。でもさ、その子は、話してみたいって近づいてきたのに、一回二人で話しただけで満足したのか、それともイメージしてたのと違ったのか、それ以来、全く連絡くれなくなってさ。ちょっと凹んだ。」
「えぇ?」
少し笑いながら言う類先輩を、驚いた顔で千花が見ると、
「でも、偶々会って話しかけたら、嬉しそうな顔するのに、やっぱりオレに似た諦めた顔で笑うんだ。でも、話してるうちに色んな表情を見せてくれてさ、可愛いなってもっと話したいなって思ったんだ。」
突然の告白に、千花は声が出せなかった。類先輩はフッと笑って言った。
「千花ちゃんは、オレとは付き合えないって思ってるでしょ?」
図星だったので答えられずにいると、
「責めるつもりはないんだ。オレもそう思ってたしね。彼女になりたいって思ってないのわかってたから、オレも千花ちゃんにカップル役頼んだわけだしさ。」
やっぱりそうだったのか、と千花はホッと肩の力を抜いた。類先輩はクスっと笑って言った。
「今明らかにホッとしたでしょ。」
千花は少し気まずいなと思いながらも、正直に頷いた。
「よくよく考えたらさ、今までこうやって、自分が一番落ち着くところとか、大事に思ってる人とかを誰かに紹介したことってなかったなって思って…。」
類先輩はオープンな人なのかなと思っていたので、千花は驚いた。
「似てるって思ってるからかな?千花ちゃんには何か話したくなっちゃうんだよね…。」
少し照れた表情で話す類先輩を見て、千花も答えた。
「何か…嬉しいです。そういうの。何て言ったら良いかわからないですけど、私も類先輩が色んなこと話してくれて、教えてくれて、嬉しいです。類先輩のこともっと知りたいなって思ってたから。」
類先輩は、綺麗に笑って
「ありがとう。」と言った。