花とバスケと浴衣と
火曜日、2限目が少し早目に終わった千花は図書館のカフェに行き、コーヒーとハムタマゴのサンドイッチを注文して、奥の窓際の席へ向かった。コーヒーを飲みながら、類先輩に、
「授業が早めに終わったのでこの間の奥の席に座ってます。」
とラインを送っておいた。
「了解。コーヒーとカツサンド頼んどいて。」
と返事が来たので、千花はもう一度カウンターへ行き、コーヒーとカツサンドを購入した。トレイを受け取って奥の席へ向かおうとすると、丁度階段を上がってきた類先輩に出くわした。トレイを見て、
「オレの分?ありがとう。助かったよ。」
と言って、類先輩は千花からトレイを受け取った。授業が終わったらしくカウンター周りには沢山人がいて、かなり混み合ってきていた。人にぶつからないように奥のテーブルへ向かい、二人で同じテーブルにつくと、
「ここのカツサンド結構人気ですぐ売り切れるんだ。」
「そうだったんですか?知らなかったです。」
「とりあえず、先に食べて良い?」
お腹が空いている様子の類先輩に、千花は笑いながら頷いた。いただきますと、大きな口を開けて美味しそうにカツサンドを頬張る類先輩を見て、千花もサンドイッチを食べ始めた。黙々と食べ続け、先に食べ終わった類先輩は、
「はぁ、うまかった。」と満足げに言った。類先輩はコーヒーを飲みながら、
「そういえば、千花ちゃん選考決めたの?」と何気ない様子で聞いた。
「一応、決めました。」
「何するの?」
「えっと…日本語教師を目指そうかと…。」
「え?まじで?」
嫌そうな顔をする類先輩に、
「ダメですか?」
「ダメじゃないけどさ…。何かあの人の思い通りでちょっと悔しい。」
「確かに雨宮先生の影響は大きいですけど、この間、説明会聞きに行って、ちゃんと日本語勉強したいなって思ったんです。」
「そっか…。千花ちゃんがそう思うなら仕方ないね。」
「あの人にはもう言ったの?」
「いえ、まだお伝えしてないです。」
「じゃぁ、ギリギリまで黙っといて。じゃなきゃうるさいから。」
千花は、笑いながら
「わかりました。」と言った。食事が終わって、千花は封筒に入れた1万500円を類先輩に返した。
「オレが無理言ってコンテストにつきあってもらうんだから、べつに浴衣ぐらいプレゼントしても良かったのに。」
「そういうのはダメですよ。私もちゃんとした浴衣欲しいと思ってたんですから。」
「一万で良いって言ったのに、やっぱりちゃんと500円まで入れてる所が千花ちゃんらしいね。」中身を確認した類先輩は、500円を出して言った。
「こういうことはちゃんとしとかなきゃ嫌なんです。」
「はい、じゃぁこれ、さっきのカツサンド代返金します。おつりとか言わないでよ。」と類先輩が笑いながら500円を千花に渡した。千花は、
「あ…。すみません。じゃぁ最初から一万円にしておけば良かったですね。」
「ね?」と言って類先輩は笑った。
「でも、何か新鮮だな。男の人におごってもらって当たり前見たいな子多いじゃん。」
「そうなんですか?でも、同じ学生なのに、そういうのっておかしくないですか?」
「じゃぁ、おれが就職したら千花ちゃん、遠慮なく奢られてね。」
「そういう意味じゃないんですけど…でも楽しみにしときます。」
二人で笑いながら、他愛もない話をし、千花は楽しい昼休みを過ごし、次の授業のために図書館前で別れた。
その日の夕方、バイトへ向かうと、花市場の市枝さんが来ていた。
「こんにちは。」
千花が挨拶をすると、
「おお、千花ちゃん。なんか最近ますますべっぴんさんになってきたなー。」
「またまた、市枝さんはホントに上手ですね。」
笑いながら話していると、
「恋の力よねー。」と奥さんが話に入ってきた。奥さんには昨日、類先輩と出かけたことを話していたからだ。
「いやー、恋かー。若いもんはいいなー。羨ましい。」
「そんなんじゃないですって。」と話していると、若い女性のお客さんが店頭のミニブーケを持って入ってきた。千花がレジに入り、
「袋に入れましょうか?」
と聞くと、女性は千花をじっと見つめていた。なんだろう?と思いながらもいつも通りの接客を行い、
「ありがとうございました。」といつも通り店頭までお客様をお見送りすると、
「調子に乗らないで。」と一言呟いてお客様は冷たい視線を千花へ向けて去っていった。え?何今の?どういうこと?千花は訳がわからずにお客様の背中を見ていたが、振り返ること無く去っていった。今のは何だったんだろう?市枝さんや奥さんと店内で騒いでいたことに対する叱責なのか…。あの人は一体誰なんだろう?千花は首を傾げながら店内に戻ると、奥さんが声をかけた。
「どうかした?」
「いえ…。今のお客様ってよくいらっしゃる方ですか?」
「今のお客様?若い子だったわよね?初めて見る顔だったと思うけど?」
「そうですか。」
「どうかしたの?」
「調子に乗らないでって言われたんです。」
「え?」
「意味がわからなくって。」
「知り合いじゃないのよね?」
「はい。」
「じゃぁ気にしなくていいと思うわよ。楽しそうにしてたのが気に食わなかっただけかもしれないし。失礼な人ね。」
「そうですね。」
千花は言われた言葉が少し胸にひっかかりながらも、明るく振る舞ってバイトを終えた。
「授業が早めに終わったのでこの間の奥の席に座ってます。」
とラインを送っておいた。
「了解。コーヒーとカツサンド頼んどいて。」
と返事が来たので、千花はもう一度カウンターへ行き、コーヒーとカツサンドを購入した。トレイを受け取って奥の席へ向かおうとすると、丁度階段を上がってきた類先輩に出くわした。トレイを見て、
「オレの分?ありがとう。助かったよ。」
と言って、類先輩は千花からトレイを受け取った。授業が終わったらしくカウンター周りには沢山人がいて、かなり混み合ってきていた。人にぶつからないように奥のテーブルへ向かい、二人で同じテーブルにつくと、
「ここのカツサンド結構人気ですぐ売り切れるんだ。」
「そうだったんですか?知らなかったです。」
「とりあえず、先に食べて良い?」
お腹が空いている様子の類先輩に、千花は笑いながら頷いた。いただきますと、大きな口を開けて美味しそうにカツサンドを頬張る類先輩を見て、千花もサンドイッチを食べ始めた。黙々と食べ続け、先に食べ終わった類先輩は、
「はぁ、うまかった。」と満足げに言った。類先輩はコーヒーを飲みながら、
「そういえば、千花ちゃん選考決めたの?」と何気ない様子で聞いた。
「一応、決めました。」
「何するの?」
「えっと…日本語教師を目指そうかと…。」
「え?まじで?」
嫌そうな顔をする類先輩に、
「ダメですか?」
「ダメじゃないけどさ…。何かあの人の思い通りでちょっと悔しい。」
「確かに雨宮先生の影響は大きいですけど、この間、説明会聞きに行って、ちゃんと日本語勉強したいなって思ったんです。」
「そっか…。千花ちゃんがそう思うなら仕方ないね。」
「あの人にはもう言ったの?」
「いえ、まだお伝えしてないです。」
「じゃぁ、ギリギリまで黙っといて。じゃなきゃうるさいから。」
千花は、笑いながら
「わかりました。」と言った。食事が終わって、千花は封筒に入れた1万500円を類先輩に返した。
「オレが無理言ってコンテストにつきあってもらうんだから、べつに浴衣ぐらいプレゼントしても良かったのに。」
「そういうのはダメですよ。私もちゃんとした浴衣欲しいと思ってたんですから。」
「一万で良いって言ったのに、やっぱりちゃんと500円まで入れてる所が千花ちゃんらしいね。」中身を確認した類先輩は、500円を出して言った。
「こういうことはちゃんとしとかなきゃ嫌なんです。」
「はい、じゃぁこれ、さっきのカツサンド代返金します。おつりとか言わないでよ。」と類先輩が笑いながら500円を千花に渡した。千花は、
「あ…。すみません。じゃぁ最初から一万円にしておけば良かったですね。」
「ね?」と言って類先輩は笑った。
「でも、何か新鮮だな。男の人におごってもらって当たり前見たいな子多いじゃん。」
「そうなんですか?でも、同じ学生なのに、そういうのっておかしくないですか?」
「じゃぁ、おれが就職したら千花ちゃん、遠慮なく奢られてね。」
「そういう意味じゃないんですけど…でも楽しみにしときます。」
二人で笑いながら、他愛もない話をし、千花は楽しい昼休みを過ごし、次の授業のために図書館前で別れた。
その日の夕方、バイトへ向かうと、花市場の市枝さんが来ていた。
「こんにちは。」
千花が挨拶をすると、
「おお、千花ちゃん。なんか最近ますますべっぴんさんになってきたなー。」
「またまた、市枝さんはホントに上手ですね。」
笑いながら話していると、
「恋の力よねー。」と奥さんが話に入ってきた。奥さんには昨日、類先輩と出かけたことを話していたからだ。
「いやー、恋かー。若いもんはいいなー。羨ましい。」
「そんなんじゃないですって。」と話していると、若い女性のお客さんが店頭のミニブーケを持って入ってきた。千花がレジに入り、
「袋に入れましょうか?」
と聞くと、女性は千花をじっと見つめていた。なんだろう?と思いながらもいつも通りの接客を行い、
「ありがとうございました。」といつも通り店頭までお客様をお見送りすると、
「調子に乗らないで。」と一言呟いてお客様は冷たい視線を千花へ向けて去っていった。え?何今の?どういうこと?千花は訳がわからずにお客様の背中を見ていたが、振り返ること無く去っていった。今のは何だったんだろう?市枝さんや奥さんと店内で騒いでいたことに対する叱責なのか…。あの人は一体誰なんだろう?千花は首を傾げながら店内に戻ると、奥さんが声をかけた。
「どうかした?」
「いえ…。今のお客様ってよくいらっしゃる方ですか?」
「今のお客様?若い子だったわよね?初めて見る顔だったと思うけど?」
「そうですか。」
「どうかしたの?」
「調子に乗らないでって言われたんです。」
「え?」
「意味がわからなくって。」
「知り合いじゃないのよね?」
「はい。」
「じゃぁ気にしなくていいと思うわよ。楽しそうにしてたのが気に食わなかっただけかもしれないし。失礼な人ね。」
「そうですね。」
千花は言われた言葉が少し胸にひっかかりながらも、明るく振る舞ってバイトを終えた。