花とバスケと浴衣と
四月、着慣れないスーツを着て臨んだ入学式。マロンブラウンに染めた髪を綺麗に巻いて、いつもよりも気合を入れてメイクをし、この日のために買った新しいパンプスを履いて体育館へと向った。
「あ、千花。」
「ミマもココだったんだ。」
170センチを超えるスラットした身長で、肩まで伸びた黒い髪に、グレーのパンツスーツをモデルのようにかっこよく着こなしていたのは、高校時代の同級生、美馬楓(みまかえで)だった。隣のクラスだったので、お互い同じ大学に入ったことをこの日まで知らなかったが、華道部の千花とバスケ部のエースだった美馬は、2年の時に同じクラスになり、サバサバした性格の二人はタイプは違えど仲が良かった。
「千花は何学部?」
「文学部地域研究科。ミマは?」
「ホントに?一緒だよ。千花が受けてたなんて知らなかった。」
「推薦で決まったから。」
「あー、それでか。髪色変えたんだ。似合ってる。」
「ありがとう。大学デビューだよ。ミマもだいぶ伸びたね。」
「うん。引退してからそのまま伸ばしっぱなし。」
「よろしくね、これから。」
「うん、こちらこそ。」
二人で笑いながら、席に向った。入学式を終えて、それぞれの科の教室へ移動し、オリエンテーションで、授業の登録方法などの説明を受けた。地域研究科は約80名。ここから、次年度にはそれぞれの地域ごとに専門分野に別れる。千花は、まだ何を専攻するか、はっきりと決めていなかった。何となく決まった大学で、してみたいことと言えば、沢山遊ぶことと、恋。新しい仲間たちと、どんな生活になるのか楽しみだった。
オリエンテーションを終え、解散となって、校門までミマと二人で歩いていると、沢山のサークルの勧誘にあった。
「ねぇねぇ、野球部のマネージャーやらない?」
「一緒にテニスやろうよ?」
「演劇部です!」
男性ばかりからかけられる声を、適当に笑顔で交わしながら、何気なくミマに聞いてみた。
「ミマは何かサークル入るの?」
「んー、まだ考えてない。何か新しいスポーツやってみたいなって気もするけど、まだコレってのはないかなー。まぁ、無理に入らなくても良いかなとも思ってる。」
「そっか。私は何かサークル入りたいなーとは思ってるんだ。知り合いも増えそうだし。」
「確かに、それはそうかも。」
「一緒に見に行く?」
「私スポーツ系しか興味ないよ。」
「はは、確かにそうだね。じゃ、もし面白そうなのあったらミマにも声かけるよ。」
ミマは高校時代から、背も高くスタイルも良いが、流行りものにあまり興味がなく、バスケ一筋という感じだった。大学デビューという雰囲気もなく、自分の世界をきちんと持っている。高校時代、一部の女子はミマのファンクラブのようなものを作り、一部の女子は、女子力の低いミマを小バカにしていた風潮があった。でも、ミマは全くブレなかった。千花はそんなミマをカッコイイと思ったし、話しかけると案外普通で、きちんと自分の意見を持っていて面白かった。ただ、スれていないというか、妙に常識知らずというか、千花に劣らず男女の付き合いに疎く、言い寄られても、ちんぷんかんぷんな返答をしていたのを目撃したことがある。明らかに好意を示していても、ミマには全く響いていなくて、アプローチをかけている男子を不憫に思ったくらいだった。校門でミマと別れ、駅を抜けて商店街を通る帰路についた。今日は何時に終わるかわからなかったのでバイトは入っていない。小森生花店の前を通ると、珍しく店頭に立っていた店長が、スーツ姿の千花を見つけて、手招きをしている。不思議に思いながら、店に入ると、奥さんも出てきて
「入学おめでとう」
大きな花束を千花に手渡した。驚きながら花束を受け取り、
「ありがとうございます。っていうか、この花束すごい可愛い。」
「千花ちゃんスペシャル。」
「うちの人が入学祝いに千花ちゃんのイメージで作ったの。」
オレンジ色を基調とした大きな花束は、ネイビーの千花のスーツによく似合った。自分では気づかなかったが、千花にはピンクよりオレンジが似合うらしい。
「この色のチューリップを市枝さんから初めて見せてもらった時に、コレだと思ったんだ。」
少し照れた様子で説明してくれるご主人に、
「すっごく嬉しいです。こんな素敵な花束初めてです。頂いて良いんですか?」
「もちろん。いつも見てる花で悪いけど、私たちからの入学祝いよ。受け取って。」
千花は、嬉しさで目をうるませながら、花束をキュッと抱きしめ、香りを嗅いだ。
「いい香り。部屋に飾ります。ホントにありがとうございます。また明日からお願いします。」
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