部長は私を甘やかしすぎです!
第二章
◯雫のアパート
雫は着替えてアパートの外で待っていた
一台の高級車が停まり竜二が出てくる
竜二 「お待たせ、どうぞ」
助手席のドアを開けて雫をエスコートする
雫 (……慣れてる)
車を走らせる
竜二 「何か食べたいものある?」
雫 「いえ、特に好き嫌いもあまりありません。お任せします」
竜二 「ん、わかった」
車を二十分程走らせてフレンチレストランへ向かう
◯レストラン店内
店員に個室に案内される
竜二 「適当に頼んでいいかな?」
雫 「はい」
ウェイターに注文する
雫は何もわからず緊張していた
雫 (こんな高そうなお店来たことない)
竜二 「お酒は呑める?」
雫 「あっ、はい、多少は」
竜二 「じゃあ軽めのシャンパンと水を」
店員 「かしこまりました」
雫 「えっ、私もお水でいいですよ」
竜二 「今日は車だし、また今度飲むよ」
少し間があった
雫 「えっ、また?あの、あの」
とまどっている雫の姿を見て竜二は笑う
竜二 「明日大学は?」
雫 「午後からです」
料理が運ばれてきた
竜二 「じゃあ沢山飲んで(笑)乾杯」
雫 「いただきます。こんな高そうなお店来たことないです。」
竜二 「居酒屋と迷ったんだけどここならゆっくり話せると思ってね。周りに人いないからそんな緊張しないで大丈夫だよ」
雫 「はい、美味しいです。あの、何故私なんか誘ってくれたんですか?」
竜二 「君に興味が湧いたから……かな?三十分じゃ話足りなかった(笑)若返った気分だね」
雫 「失礼ですがおいくつですか?」
竜二 「二十八歳だよ、もう若宮さんから見たらおじさんかな?」
雫 「いえ、お若く見えます。前髪おろすと特に……」
竜二 「仕事の時は年上の人が多いからね。きちんとしとかないと、と思って気を付けてる。若宮さんと話してると気が休まってとってもいい気分だ」
雫 「大変ですね」
竜二 「もっと呑んで……大学のことも聞きたいな」
竜二は空になったグラスにシャンパンを注いでいく
雫 「今、三年です。夜はバイト毎日入れてるのでこんな食事とか久しぶりです」
お酒が入って雫は頬が少し赤くなってきた
竜二 「一人暮らししてるの?」
雫 「はい、実家は県外ではないんですけど、車で二時間くらいかかる田舎なので通うのは少し不便で駅までも時間かかるので」
雫はお酒の力も借りて竜二と楽しく会話してあっという間に時間は過ぎていった
二人は食事を済ませて店を出た
竜二 「これからどうする?まだ呑める?」
雫 「私だけ呑んでも……部長も明日お仕事なので帰ります」
竜二 「じゃあ、送るよ」
雫 「ありがとうございます」
二人は車中で話していたが雫の言葉が聞こえなくなってきた
竜二は車を停める
竜二 「若宮さん、もう着くんだけど?」
雫はスースーと寝息を立てていた
竜二 (参ったな、鍵……鞄開けるわけにもいかないし)
◯高層マンション 朝 竜二の部屋
雫は目を覚まし目を開けると高い天井が……
雫 「ここ……どこ?」
雫は体を起こして辺りをキョロキョロ見回す
雫 (えーっと食事終わって……)
ガチャンとドアが開くとシャワーを浴びたばかりの竜二が頭にタオルをかけてTシャツとスウェットで入ってきた
竜二 「あっ、起きた?おはよう」
竜二は朝から爽やかな笑顔で微笑む
雫 「おはようございます。あのここは?」
竜二 「俺の家」
雫は青ざめる
雫 「わ、私何かやらかしましたか?すみません全然覚えてないんですけど……」
竜二 「どこまで覚えてる?」
雫 「店を出たのは覚えてます。部長にご迷惑かけてしまって申し訳ありません」
ベッドの上で土下座する
竜二 「頭上げて」
竜二はベッドに上がり雫の頭を起こす
竜二 「よかった!俺との会話は覚えてるんだね(笑)昨日車に乗ってから少ししてから寝てしまったんだよ。鞄から鍵出すのも悪いからここに運ばせてもらったよ」
雫は頭を起こされると窓を見た
雫 「えっ」
窓のほうに歩いていく
雫 「マンションだ!運ぶってあの……」
竜二 「ちゃんと大事にお姫様抱っこで運んできたよ(笑)」
雫 「すみません!重かったですよね?本当にすみません」
ペコペコと頭を下げる
竜二 「全然、気にしないで」
雫 「あっ、もしかして仕事遅刻させてませんか?私が起きなかったから」
竜二 「大丈夫、それならゆっくりシャワーしてないし、置き手紙してる。今日は午後から別の店舗に直接行くから大丈夫だよ。それより何か食べに出よう」
雫 「あ、いえそんな甘える訳には……家に帰ります。ここはどこですか?」
竜二 「高木町だよ」
雫 「大学の近くなんですね」
また、窓に寄って外を見る
雫 「あっ、見えました(笑)凄い高い!」
竜二 「若宮さん、いや雫ちゃん?」
雫 「はい、部長」
雫は振り向いた。
竜二 「今は仕事中じゃないから部長って呼ばなくていいよ」
雫 「でも……」
竜二 「いいから(笑)ねえ、雫ちゃんは彼氏いるの?」
雫 「いえ、大学とスーパーの往復でそんな暇ないです」
竜二 「俺、昨日雫ちゃんと話していてすごく楽しかったんだよね。また会ってくれないかな?」
雫はびっくりして目を大きく開く
雫 「わ、私なんか普通の学生で部長は、あっすみません。真中さんは大人で私は子供であっ、子供って言っても一応成人してますけどあれ?私何言ってるんでしょう」
竜二 「(笑)昨日は話をしたくて個室にしただけで俺だって普通だよ。本当に今度また食事に付き合って欲しいな」
雫 「えっ」
竜二 「そんな驚くこと?」
雫 「だって、私そんなこと言われたことないですし、真中さんみたいに格好いい人が彼女いないわけないじゃないですか?彼女さんに悪いですよ」
竜二 「今は彼女いないから家に運んだんだよ。いたらどこかホテルをとるよ」
雫 「こんな地味な私が……」
竜二 「全然地味じゃないよ。お客さんと話している雫ちゃんの笑顔は素敵だよ。それに素の俺に気付いてくれたのもうれしかったよ。昨日の時間なんて全然足りない」
雫 「私のことからかってませんか?」
竜二 「どうしたら信じてくれるのかな?」
雫 「どうしたらって……私に教えてください。私もわかりません!」
竜二 「ぷっ、雫ちゃんおかしいなー(笑)教えてあげたいけど、俺の言うことを信じてくれたらわかるかもだよ。ヤバい雫ちゃんのびっくりした顔ツボった(笑)ハハッ笑いすぎて腹痛てっ」
雫 (笑うと子供みたい)
「ふふっ、わかりました。真中さんのこと信じます」
竜二 「本当?あー、苦しい」
お腹を押さえて笑う
雫 「真中さん、笑い上戸ですか?」
竜二 「んーどうだろ?でもこんなに笑ったのは久しぶりかも……仕事の時には素で笑うことはできないから(笑)」
竜二はまだ笑っていた。どうやら本当にツボにはまったようだ
雫 (そっか、立場上……若くして部長なんて皆から色々言われて大変だろうな)
竜二 「笑ったらお腹すいたな。やっぱり何か食べに行こうよ」
雫 「何か食材あれば私作りますよ?」
竜二 「雫ちゃん、料理できるの?」
雫 「はい、自炊してます」
竜二 「すごいなー、俺何もできないから食材はないかなー」
雫 「でも男の一人暮らしはそんなものかもです。夕方お弁当と次の日の朝のパンを買って帰る人沢山いますからね」
竜二 「そうだろ?」
雫 「はい、女性も多いです」
竜二は背広に着替え始める
竜二 「モーニング食べに行こう。食べたら送るよ」
雫 「はい、すみません」
◯喫茶店
竜二 「こんなにゆっくりした朝は久しぶりだな」
雫 「真中さんはいつがお休みなんですか?」
竜二 「店舗じゃないから基本土、日が休みだけど呼び出されることも多いから電話があったら仕事に行くよ」
雫 「えっ、そうなんですか?」
竜二 「何かトラブルがあったときは一応店長が対応するけど話を聞きに行くよ、報告することになってるからね」
雫 「大変ですね」
竜二 「まあ、仕事だからね(笑)」
雫 「事後報告じゃいけないんですか?」
竜二 「そういう時もあるよ、だけど行けるときは行くようにしてる、店長は気が気じゃないだろ?」
雫 「ゆっくり休んでくださいね。」
竜二 「ありがとう、きっと雫ちゃんと会ってるときは今動けないんで明日聞きます!って言っちゃうかも(笑)」
雫 「真中さんが休めるのならいつでも呼んでください(笑)」
竜二 「嬉しいな、そんなこと言われたら仕事行く気なくなっちゃうよ」
雫 「あくまでもお休みの日だけの話ですよ?」
竜二 「わかった。でも雫ちゃんも毎日バイト入ってるから無理しないでね」
雫 「私は土、日の昼は休みですから」
竜二 「じゃあ、土、日の昼に会えるんだね?」
雫 「基本そうですかね、昨日みたいに仕事終わってから二時間くらいなら食事できますけど昨日みたいに飲み過ぎないようにします」
竜二 「酔った雫ちゃんも可愛いし呑んでもいいよ」
楽しいお喋りをしながらモーニングを食べ終える
竜二 「そろそろ出ようか?送るよ」
雫 「はい、あっお金出します。昨日奢ってもらったので」
鞄から財布を出すと竜二が止める
竜二 「君はまだ学生なんだから俺が出すよ」
雫 「でも……」
竜二 「今度手料理ごちそうしてね(笑)」
雫 「はい、ごちそうさまでした」
車で雫をアパートに送る
竜二 「また、連絡するね」
雫 「はい」
その後連絡がこないまま一ヶ月が過ぎた