太陽と月の物語

♢side 月


もう一度、時間を巻き戻せるなら……何度も馬鹿みたいなことを考える。

もしあの日に戻れるなら、俺はあの日にデートをしない。
したとしても、行き先を変えるか。待ち合わせ場所を変える。

朝陽が心を見つけて駆け出したとき、車が近づいていたのを知っていた。でも随分、距離はあったし、車がブレーキを掛ければ止まれる距離だった。

そう、ブレーキをかければ、だ。
何故か車はスピードを上げて心と朝陽にぶつかった。心の足だったらきっと咄嗟に逃げれたと思う。だけど、足がすくんだ様子の朝陽をあいつは放っていかなかった。ぶつかると思った刹那。あいつは庇うように朝陽を抱きしめた。

「朝陽……!!」
「心……!?」

付き合って半年という記念日を迎えた2人。横断歩道で寄り添いあった2人をさっきまで微笑ましく見ていた俺と麻子はそれぞれの親友の名を呼んだ。

2人のことに気を取られて、俺は気づくのが遅かったんだ。さっき2人を跳ねた車が更にスピードを上げて迫っていることに。
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