太陽と月の物語
5日後、朝陽が目を覚ましたと聞いた。今頃、朝陽もあさが亡くなったと言われているのだろうか。
病室の窓から見える桜の蕾がはち切れんばかりに、膨らんでいた。
あさ。一緒にお花見に行きたいって言ってたよな。
会いたいよ。行こうよ。あさ。
あんなに隣にいたのに、抱きしめた温もりだって思い出せるのに、そばにいないことが信じられなかった。
一週間を過ぎた頃、あさの母が俺のお見舞いに来た。
「麻子と仲良くしてくれてありがとう」
目の前にいながら守れなかったのに、大切な恋人を庇うことなんて出来なかったのに、麻子の母はそう言って涙を流しながら、微笑んだ。笑った時の頬の形があさとそっくりだった。
事故から15日目。
3月29日。
桜の花びらが舞い散る頃。
心が死んだ。