太陽と月の物語
心が息を引き取った。
そう俺に告げたのはお袋だった。
お袋に無理言って車椅子で心が眠る病室に連れて行ってもらったけれど、部屋の前にいた心の母は会わせてくれなかった。
「あなたには心が笑っている姿だけ覚えていてもらいたいから」
それが理由だった。
事故で傷だらけの心を見て、俺がショックを覚えないようにとの配慮もあった筈だ。
憔悴しきった様子の心の母にそれ以上の我儘は言えなかった。個室の部屋の外から手を合わせただけだった。
心が死んだというニュースは、テレビでもやっていた。誰が提供したのか、地区大会で優勝した心の笑顔の写真が映されている。
心が愛する恋人を守るように抱きしめていたという話が、まるで美談のように語られていた。
そしてこの事故で亡くなったあさの写真も一緒に移し出される。あさの写真はこの前の遠足での集合写真だった。
淡々とキャスターによって語られる二つの命。まだ若いのに、とコメンテーターが悲痛な表情で語ったあと、ニュースは次のものへ移った。
俺にとっては大事件でも、世間から見た心の死はそれほど大きな出来事ではないらしい。