太陽と月の物語
身代わりの時間
♢side 太陽
名前を呼ばれた気がして目を開けたら、眩しい光に包まれた。
焦点が合ってくると、憔悴した母の顔が浮かんでくる。
「お母……さ……ん?」
母は一瞬虚を突かれたように何度も目を瞬かせたあと、何度も私の名前を呼びながら、ナースコールを押していた。
あの日のことは夢だと思いたかったけれど、どうやらそれは違うらしい。
体中、骨折していたが、あれだけの事故にもかかわらず、一命を取り留められたのは、隣にいた彼が守ってくれたからだろうと医者に言われた。
医者が去ったあと、母は泣きながら事故のことを教えてくれた。
あの日、私達を跳ねた車は運転手がアクセルとブレーキを踏み間違えたことが原因らしい。
まず横断歩道にいた私と心くんを跳ね、パニックを起こした運転手はハンドルを大きく切った。そして車は私が最後に見た通り、麻子と真月がいた噴水に当たって止まったらしい。
麻子は即死。真月は足を負傷し、陸上の夢を諦めなければならなくなった。
そして、私を庇おうとした心くんは今も眠りについたまま、目を覚まさない。