太陽と月の物語
夜は眠れない。
朝が来るのが怖いから。
心くんや麻子には訪れなかった明日が訪れることが怖い……。生きていることが苦しくて、申し訳なくて。
だから、毎晩、自室の窓からこっそり抜け出して、夜のお散歩に出掛ける。夜遊びをする訳でもなく、自殺する勇気もなく、ただ一人、歩く。
麻子と出逢った幼稚園。
毎日連れ立って帰った通学路の坂道。
心くんと初デートで歩いた公園。
4人で買い食いしたコンビニ。
麻子と2人、恋バナに花を咲かせたカラオケ店。
クリスマス、初めてキスした丘。
最期にいた駅前の噴水。
この街には私達の思い出がそこら中に散らばっていた。どこを歩いても、思い出すのは失った人達の眩い笑顔だった。
会いたい……。
麻子……心くんに会いたいよ。
「あさ……っ」
大切なひとを求める悲痛な声を夜風が運んできた。
見なくても誰なのか分かるけれど、あえて私は振り返る。
「真月……」
目の前には私と同じように、親友も恋人も失った男がいた。夢さえも奪われた彼は、まるで力が抜けたかのようにその場に座り込んだ。
「あさ……!あさに会いたい!心に会いたい」
私と同じ願いを抱く彼に駆け寄り、痩せてしまったその肩をそっと抱きしめる。そうでもしないと、彼までも何処かへ消えてしまいそうだったから。
「真月……」
あの日。真月と麻子を待たせず、水族館に行くよう促していたら……。
心くんの元へ駆け寄らず私1人が噴水前に立っていたら……。
心くんのことだから、きっと咄嗟に走って助かったはず。私を庇うことなんてなかったはず。
私が殺した。麻子と心くんは、私が殺した……。
「真月……。私を身代わりにすればいい」
気づけばそう呟いていた。