太陽と月の物語
朝陽。
呼びかけて、朝陽の意識をここに繋ぎ止めようとしたかったのに。
「あさ……っ」
最後の一文字が声にならなかった。
他の人と被らないようにと名付けた恋人のあだ名。
何度も呼んだその2文字が俺から力を奪っていく。
「あさ……!あさに会いたい!心に会いたい」
失ったものの大きさに気づいた俺を温もりが包む。俺と同じ傷を負った女。俺と同じくらい大きく震える彼女は俺の耳元で囁いた。
「真月……。私を身代わりにすればいい」
こんなこと許される訳がない。
頭の奥の方で警告音が鳴っている。
朝陽を傷つけるだけ。心や麻子を裏切るだけ。そして、その罪悪感に後に押しつぶされることを分かっていながら、目の前の温もりを手放せなかった。