太陽と月の物語

「あれ。噴水がない」

駅の中もリニューアルして綺麗な印象を受けていたが、駅の外に出て、さらに驚く。
あのときの噴水がなくなっていたのだ。代わりに地元のゆるキャラのモニュメントが堂々と立っている。

「噴水も老朽化が進んでサビサビだったからね。この駅の改修と同時に壊されたんだよ」

事故のあともブロックが直され、定刻になると水を噴き上げていた噴水。麻子との最期の思い出の場所だった。

「手を合わせていこうか」

麻子のことをよく知っている姉の提案に同意して、噴水があったと思われる場所にしゃがみこむ。

麻子……心くん。
久しぶりに帰ったよ。

だけど、そのあと何も言葉が出てこなくて、私はただ目を閉じて、過去の思い出を振り返る。

『でもね。すごーく、幸せだったよ』

麻子の笑顔。
……私にはそんな幸せを噛みしめる資格なんてない。

『心くんが守ったのってあの子だって』

そう。私のせいで心くんは亡くなった……。

『どうせなら、あの子が死ねば良かったのに』

あの日亡くなったのが私だったら、今頃、真月も笑ってくれていたのかな?

変わらない現実と幾つもの後悔を抱えて、立ち上がる。お腹の大きい姉に手を差し出すと、姉は「よっこいしょ」と声を上げて立ち上がった。姉らしくもない声に笑うと「あんたも妊娠したら妊婦の辛さが分かるわよ」と睨まれた。
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