太陽と月の物語
私が通勤服に着替え終える頃、後輩ちゃんは念入りにメイク直しを始めた。
「デート?」
「はい!3週間ぶりのデートです」
「そう。よかったじゃない」
後輩ちゃんには仕事が忙しい彼氏がいる。なかなか予定が合わず、デートもままならないのだとか。そんな彼女の嬉しそうな表情に私もなんだか嬉しくなる。
私は帰るだけだしメイク直しはいいかと、荷物をバッグに仕舞ってると、手に持ったスマホが震えた。LINEだ。
『20時』
何という短文。送り主は誰だか見なくても分かる。こんなメッセージを送るのは他にいない。
「彼氏からですか!?」
目敏く見つける後輩ちゃん。慌てて私はスマホを隠した。あなた、アイラインを引くのに夢中になっていたのでは?
「違います」
「じゃあ、誰ですか!?」
「……友人?」
まさか言えるまい。
先程、噂されていた八幡主任からだなんて。
『20時』
その短文が意味するのは『20時には帰るからそれまでに俺の家に来て晩飯作っとけ』ということだ。
『20時』
幾らなんでも割愛しすぎだとも思うが、それを洞察力でカバーできちゃうから、仕事場でも相棒に仕立て上げられるのだ。
ちなみに今は19時過ぎ。
真月の家まで会社から30分は掛かるから、なかなか時間はない。