太陽と月の物語
「目を覚まして、朝陽。私、あなたには幸せになってほしいの」
姉の言葉に思わず自嘲気味に笑ってしまった。
「幸せ?そんなの私の人生に要らない。麻子も心くんも殺して、真月を絶望に追い込んで……それなのに、私一人幸せになれる訳ないじゃない!」
「朝陽……!」
「もう放っておいてよ!」
掴まれたままだった腕を力いっぱい振りほどくと思いのほか、姉の手は簡単に解けた。姉は二、三歩よろめき、だけど転ばずに踏ん張った。その様子を見た後、私は身を翻す。
「待って……あさ……っ!」
「夕陽!?」
将大さんの悲鳴のような声に驚き振り返ると、お腹を抑える姉とその肩を支える将大さんが目に入る。
「お姉……ちゃん……?」
スカートから覗く姉の細い足に赤い糸のようなものが伝っている。
赤い……?
違う。あれは糸なんかじゃなくて……!
「お姉ちゃん、出血してる……!」
「朝陽ちゃん……救急車呼んで!」
その後の記憶はあんまり覚えていない。