太陽と月の物語
「ごめんなさい。無理です」
「俺のこと嫌い?」
「そうじゃなくて」
アキラさんが顔を覗き込んでくる。
「私は幸せになっては駄目なんです」
『あさ……!あさに会いたい!心に会いたい』
あのひとの悲痛な声がある限り……。
せめて、あのひとが幸せになるまでは。
「お会計をお願いします」
「ちょっと、待ってよ。アサちゃん」
私が立ち上がるとアキラさんも慌てた様子でウイスキーを一気に飲み立ち上がった。
「お会計二人分清算してください」
アキラさんはバーテンダーさんにカードを差し出す。その手は私を逃がさないように、腰を抱いてきた。
ストレートのウイスキーを一気飲みしたせいだろうか。彼の手が熱い。
バーテンダーさんからカードを受け取った彼がカードを財布に仕舞う間だけ、彼の手が離れた。
だけど今度は手を取られる。まるで恋人同士のように優しくそっと手を繋がれた。こんなに優しく手を繋がれるのは心くん以来だと思う。
「ありがとうございました」
「ご馳走さまでした」
バーテンダーの声を背中に受け、一度振り返った彼がバーテンダーさんに頭を下げる。
「ご馳走さまでした」
私も同じように頭を下げると、彼にくいっと手を引かれた。
またホテルに行くのかな?いつもみたいに。
そう思って顔を上げたとき、カランと鈴を鳴らせながら入り口の扉が開いた。
「……っ!?」
「あれ、朝陽ちゃん?と、晃か」
入り口から入ってきたのはここ数日で一気に痩せた将大さんと無表情の真月だった。