太陽と月の物語
どうして。
普段、命令にもならない単語しか話さないくせに。
私の名前なんて忘れたみたいに呼ばないくせに。
どうして、名前を呼ぶの?
どうして、「待ってるから」って聞こえてきそうな優しい声で話すの?
「アサちゃん。帰ろう」
「……あ」
振り返るものの薄暗い室内で真月の真意は分からないまま、私はアキラさんに連れられお店の外に出た。
「……ホテルに行きますか?」
バーを出たあと、いつも向かうのはネオンが眩しいだけのホテルだから、今日も行くのかとアキラさんを仰ぎ見る。
しかし、彼は首を横に振る。
「行かない。言っただろ?中途半端な関係は辞めたいって。アサちゃんが俺のことを好きだと言ってくれるまで、俺からは手を出さないから」
俺なりのケジメなんだよ、とアキラさんは笑いながら、私の頬に触れた。愛おしそうな指の動き。心くんがキスをくれる前によくしてくれた仕草に似ていて、切ない。
慰めだけの行為をする相手は皆、こんな優しさなんてくれなかった。
「でもね。今日は一緒にいたいから、俺の家に来て。誓って何もしないから」
「アキラさんの家……」
「そう。今にも泣きそうな君を一人で帰したくない」