太陽と月の物語
朝陽に男の影があるのは気づいていた。
だけど、こうして朝陽と男が一緒にいる場面に鉢合わせするのは初めてだ。おまけに、朝陽の手は守られるように優しくそっと繋がれている。
「将大さん」
晃という男が将大さんの名前を呼んだ。
「俺、アサちゃんとの中途半端な関係を卒業します。全力で口説くことにしました」
「ちょっと、アキラさん……!」
力強い宣言に慌てた様子なのは朝陽の方だ。繋がれた腕を引っ張り、男の顔を覗き込んでいる。
「まだ恋人じゃないんだ?」
「今はまだ俺の片想いです」
将大さんの言葉に照れたように答える男。
「でもいつか、落としてみせます」
強い決意とその甘い笑顔に、多くの女は簡単に落ちていきそうなものだが、朝陽は当惑したように目を彷徨わせる。
ここまで心から愛してくれる男。
こんな誠実で懐の大きな男こそ、朝陽に似合う男じゃないのか?
心や麻子のことで、傷つき、惑い、自分見失ってしまった、そんな朝陽を癒せる男は今目の前にいる男じゃないのか?
「行こうか、アサちゃん」
男は朝陽に声をかけ、身を翻す直前、チラリと俺の方を見た。
今が朝陽を解放するときかもしれない。
あいつと手を繋いでいる方が朝陽は幸せになれるかもしれない。
でも……。
「朝陽。明日、20時な」