太陽と月の物語
随分、久しぶりに朝陽の名前を呼んだ気がする。朝陽の肩がピクリと反応した。
手放すことが朝陽の幸せになると思いながら、縛り付ける言葉を放つ最低な俺を朝陽はゆっくりと振り返る。
確かに視線はあったのに、薄暗い室内で朝陽が何を思っているのかわからない。
「アサちゃん。帰ろう」
「……あ」
小さな呟き一つ残して、朝陽は男に連れて行かれた。
明日は3月14日。
俺にとっても朝陽にとっても大切な日だ。
この悲しみも苦しみも寂しさもやるせなさも、全てを重ね合わせてきた。今はもういない人を想って、その孤独から逃れるように、肌を重ねてきた。他の女からの誘いを断っても、この日だけは朝陽を選んできた。
果たして、今年は朝陽は俺の所に来るのだろうか。
「……真月。座ろう」
しばらく二人が消えた扉を見つめていた俺は、将大さんの声で我に返った。