太陽と月の物語
「豚キムチ」
「そう。残業したから簡単なものしか出来なかった。ごめん」
「いいよ。食えればなんでも」
真月は食卓につくと、黙々とご飯を食べ始めた。彼は食事にうるさくない。
高級なイタリアン料理(一緒に食べたことないけど)でもパンの耳だけ(流石にそこまで手抜きしたことないけど)でも、真月は同じ表情でただ黙々と食べるだろう。そういや、よそ見して真っ黒に焦げた焼き魚もちゃんと完食してくれた。
腕のふるい甲斐がない代わりに、どんなものを出しても、文句なく黙って食べてくれる。
「食わねぇの?」
「あ、食べる」
食卓を囲む私達に特に会話はない。テレビもあるくせにつけないから、部屋は静かだ。食事を咀嚼する音と遠くで電車が走る音が時々するだけ。
先に食べ終わるのは真月。そのまま食器を運んで自分で洗い始める。私も食べ終えて食器を運ぶと真月が手を出すから、その手に今運んできた食器を渡す。実は洗い物が好きな彼は無表情なままながら、泡だらけのスポンジでお皿をこする。
「シャワー」
浴びてこいという意味らしい。
いつのまにか私専用となっているTシャツと短パンを借りてシャワーを浴びる。
サイズを間違えたとか言っていたその部屋着だが、サイズがぴったりなのを見るに彼がわざわざ用意してくれたんじゃないかなと思う。そういうところ、優しいから。