太陽と月の物語
カウンターに座った俺たちはとりあえず一杯目にビールを注文した。
バーテンダーさんが出してくれたジョッキを受け取り飲み始めたら、将大さんが口を開いた。
「……薄々気づいてはいたが、お前も朝陽ちゃんと関係を持っているんだよな?」
そうなんじゃないか、という疑惑が先程、俺が朝陽を誘ったことで確信に変わったようだ。
「……はい」
素直に認めた。
嘘をついたところで、すぐに見破られるだろう。
「恋人でもないんだろう?」
「俺の恋人は麻子しかいないし、多分、朝陽にも心しかいないと思いますよ」
一途だなと将大さんが呟く。
小学校時代からの初恋を叶えた将大さんが言えることじゃないと思うが、そのことには触れなかった。
目の前のこの人は、つい先日、その初恋の相手を失ったのだ。
「……夕陽がな」
ビールを一口飲んだ将大さんがため息混じりに愛する人の名前を紡いだ。
「朝陽ちゃんのその関係を咎めたんだ。夕陽は彼女の幸せを願っていたから」
夕陽さんは朝陽の幸せを願っていた。当たり前だよな、夕陽さんにとって、朝陽はたった一人の妹。優秀な姉にコンプレックスはあったそうだが、仲がいい姉妹だった。
「二人はそのことで口論になったんだ。夕陽が倒れる直前の話だ」
「……」
「“もう放っておいてよ”だったかな。朝陽ちゃんがキツく怒鳴った瞬間、夕陽が出血と腹痛で倒れた……。それっきり」
喉を潤したくてビールを飲むが、ジョッキの中は空だった。
「……じゃあ、朝陽は……」
「朝陽ちゃんは多分、自分を責めている。自分のせいで姉は死んだのだと」