太陽と月の物語
3月14日。20時まであと5分。
「……来たんだ」
「あなたが来いって言ったんじゃない」
玄関の鍵が開く音がして立ち上がってみれば、買い物袋を片手に持った朝陽が立っていた。
「夕飯は?」
「そういえばまだだな」
「そういえばって何よ」
今日、朝陽は来るんだろうかと色々考えこんでいるうちに夜になっていた。
「パスタでいい?」
「……ん」
慣れた足取りで部屋に上がってくる朝陽。でも、彼女が横を通り過ぎた瞬間、違和感に眉をひそめた。
「……ちょっ……真月!?」
その腕を掴み抱きしめた。髪を括っているせいで無防備なうなじに顔を埋める。
「……匂いがする」
朝陽の柔らかい甘い香りが消え、普段と違う匂いが彼女を包んでいた。
「え。私臭い!?」
ギョッとした朝陽は慌てて俺から離れようとするのを男の力で更に抱きしめる。
「違う。汗とかじゃなくて……香水……?」
呟いた途端、朝陽は何かに気づいたのか、ハッとした。
ああ、そういうこと。
「こんなに匂いが移るぐらい近くにいたんだ」
そこが弱い知りながら、わざと目の前のうなじに口づけ、舌先でつついてみる。
「……や!真月……」
力が抜け足元から崩れそうになる朝陽をこの腕で抱きしめた。
「シャワー」
浴びてこいよ。
他の男の匂いを身にまとった朝陽なんて嫌だ。
面白くない。
「ええ?真月、夜ごはんは?」
「後でいい」
朝陽が当惑した表情で俺を見てくる。そんな朝陽から買い物袋をひったくり、風呂場へ押しやった。