太陽と月の物語
マスターがウイスキーのロックを渡してくれた。お礼を言って、口をつける。
「朝陽は陽輝(はるき)ちゃんに会ってる?」
陽輝ちゃんは、私の姉が命がけで産んだ女の子だ。私の姪っ子にも当たる。
「たまに会いにいくけど。そこまで頻繁には。将大さんに会っても心苦しいから……」
私があの家族を壊したんだと、将大さんの顔を見るたびに思う。子どもを見て笑っているのに、どこか寂しそうな憂いを帯びた顔。
「朝陽のせいじゃないよ。夕陽さんが亡くなったのは。将大さんだって露にもそんなこと思っていない」
「でも……」
「朝陽が自分を責めるなら、喧嘩の原因を作った俺にだって責任はあるよな」
そんなことない、とは言わせてもらえなかった。
アキラさんの頭が隣に座る私の肩に乗ったから。
「……朝陽はどうして恋人を作らないんだ」
「アキラさん……」
「夕陽さんも将大さんも願っている。君の幸せを」
もちろん俺もね、と付け加えられた。
秘密にしておくつもりだったのに、肩に乗る温もりに誘われて、いつの間にか声を出していた。
「……私には親友がいました。麻子と言います。『あさこ』と『あさひ』。名前が似ていることがきっかけで仲良くなりました」
どうして語り始めたのか分からない。この人に救われたかったのかもしれない。
「中1のとき、麻子に恋人ができました。真月って言う、クールなくせに麻子を溺愛していて、すっごいツンデレな人です。陸上部の期待の星でした」
ウイスキーのロックが入ったグラスを揺すると、氷がカランと涼しげな音を立てる。