太陽と月の物語
「私は麻子と一緒に陸上部を見に行きました。二人きりで帰るのが恥ずかしいと言われて、麻子と真月とそして真月の親友の男の子と一緒に帰るようになりました」
心くん。
第一印象だった、あの優しい笑顔は今でも忘れたことがない。
「心くんって言います。一緒に帰るうちに、いつのまにか、好きになりました。笑顔が素敵で優しくて。彼の誕生日に告白して、両思いだと知って、付き合うことになりました」
アキラさんは黙ったまま、私の顔を見つめている。無言でも話の続きを促されているのが分かる。
「ホワイトデーの日は私と心くんの半年目の記念日でした。たまたま土曜日で、電車に乗って水族館へ行こうと約束していました。私、もう楽しみで。待ち合わせにしていた駅前の噴水に早い時間から待っていたんです」
このあと、あんな悲劇が来るなんて誰が思ったことだろう。
心くんを待っていたあの瞬間が私の幸せの頂点だった。
「そこに着たのは麻子と真月でした。2人もこれから水族館デートだったそうです。私は……1人で待つより3人の方が楽しいからと、一緒に待ってもらいました。……そのことを何回後悔したか分からない」
「……後悔って……?」
アキラさんが顔を曇らせる。ウイスキーを一口飲んで、震えそうになる声を懸命に堪えながら、私は後悔の全てを吐き出す。
「しばらくして、心くんが来たのが見えました。私は待てずに彼の元へ駆けつけたんです。……そのとき、近づいてきていた車が急加速してきて」
あの日、空が綺麗だった。哀しいぐらいに澄んだ青だった。
「私は心くんに抱きしめられて、2人とも地面に叩きつけられました。車の運転手はパニックを起こしてハンドルを大きく切って、最後は噴水に突っ込んで止まったそうです」
「噴水前って……もしかして……」
「そうです。さっきまで私がいた場所。当然、麻子と真月はそこにまだいました」
アキラさんは息を呑んだ。この恋の結末が見えたみたいだ。