太陽と月の物語
「駄目です。真月が幸せじゃないのに、私1人が幸せになる訳にはいきません」
私はそう言って、アキラさんの手を掴んで頬から離した。
「ごめんなさい。アキラさん」
アキラさんの方を向いて頭を下げる。アキラさんの表情を見るのが怖くて、しばらくそのままでいたら、頭上からクスクスと予想外の笑い声が聞こえた。
驚いて思わず顔を上げる。
アキラさんは何処か吹っ切れた顔をしていた。
「やっぱり、敵わないよなぁ」
「……あ、アキラさん……?」
「朝陽の愛は全部、真月くんにあるんだなぁってよく分かった」
「えっ!?」
愛?
「愛って何?私が真月のそばにいるのは……」
そんなの罪悪感が理由だからで。
誰にも裁かれない罪人の私が私に課した罰だからで……。
「……愛なんてそんな綺麗なものじゃない」
「愛だよ。だって君は自分を犠牲にしてでも、真月くんの幸せを願っている。どこまでも美しい、大きな愛だ」
違うと言うのにアキラさんは、胸を張って断言する。
「……好きなんだろ?真月くんのこと」
「はい!?」
静寂が渡っていたバーの室内の私の声が響く。グラスを磨いていたマスターが眉毛を上げて注意を促してくる。
すみませんとペコペコ頭を下げて、アキラさんを見ると彼は面白いものを見るように楽しそうに笑っていた。
「まさか。私が真月を好きだなんて……」
「案外、気づいていないのは本人だけだったりして」
「真月は麻子の恋人だよ?親友の彼氏なんだよ?」
「15年前の話だろ?それに麻子ちゃんはもう亡くなっている。今、朝陽が真月を好きでも誰も咎めない」