太陽と月の物語
アキラさんと一緒にバーを出ると、いつもはそのままアキラさんの家に向かうが、今日は一人で帰路についた。
ソメイヨシノからバトンタッチした八重桜が咲き誇っている。
このまま家に帰るのもなんだか勿体ない気がして、少し遠回りしてみる。
こうやって、夜道を1人ブラブラすると、15年前を思い出す。夜眠れなくて部屋を抜け出し、麻子や心くんとの思い出の場所を巡り歩いた。
悲痛な声に振り返ったら、茫然自失の真月がいて……麻子の身代わりになると決意した瞬間から、私と真月の関係が始まったんだ。
……真月は、あの時間によって少しは救われただろうか。
気づけば街灯が増えていて、人の気配も増えた。遠回りしたがいつの間にか、駅前に出てきたみたいだ。
そろそろ帰ろう、明日も仕事だと、踏み出したはずの足が止まる。
「……宮端さん?」
煌々と電気が明るい喫茶店の中に見知った人を見つける。彼女は私には気付かず、共にテーブルを囲う相手との話に夢中だ。
この会社に入社すると同時に引っ越して来て、周りに知り合いがいないと言っていたから、こうして会社後に話す相手が出来たのかと、私も内心喜んだ。
そして、その相手を見て固まった。
「……真月」
真月が宮端さんと喫茶店で向き合っている。何の話をしているのだろう。店の外にいる私には会話は聞こえない。でも楽しそう。
宮端さんが身振り手振りで何かを一生懸命伝えると、真月が肩を揺すらせながら笑った。
……真月が笑った。
あの無愛想な真月が。
15年間、一緒にいても私には出来なかったのに。
もう身代わりが用無しになるのは、時間の問題なのかもしれない。
私は2人に背を向けて歩き出す。
『……好きなんだろ?真月くんのこと』
アキラさん。ねぇ、アキラさん。
この胸の痛みこそ、アキラさんが言っていた宿題の答えでしょうか。