太陽と月の物語
なんだろう。風邪でも引いたかなぁ。
朝から感じていた胸のつかえが、取れない。吐き気を逃すために息が浅くなるから、脳に酸素が回らなくてぼうっとする。
惰性でパソコンを叩いていると打ち間違えたので、消す作業をもう何度行っただろう。
このままだと残業になる。一息つこうと飲み物を買いに行くことにした。ああ。ついでにトイレにも行っておこう。
トイレに入ると、手洗い場に女性社員が2人いた。
「先輩〜。生理痛の痛み止め持ってません?手持ち切らしちゃって……」
「あ〜ちょっと待ってね。ああ、これだ。はい」
「ありがとうございまーす!あとで、コーヒー奢りますよ〜。先輩」
トイレの中は響くから女性社員達の会話は個室に入った私にも丸聞こえだった。
生理痛大変だよね。私も2日目とかかなり痛くて、休みの日だとベッドから出られない時がある。平日は身体に鞭打って行くけど。
……次の予定日いつだろう?
前来たのいつだっけ?
……え。いつ……?
私は飲み物を買うことも忘れて、デスクに戻った。大慌てで手帳の最初のページをめくる。表紙が気に入って購入したこの手帳は最初のページに1年間のカレンダーが1ページにまとめて載ってあり、私は生理ウィークの日付けをマーカーで塗っているのだ。
最後に来たのは2月……。
3月には何も書いていない。
鼓動が速くなる。脈打つ音さえこの耳に届いてきそうで。
「春川さん?大丈夫ですか?」
「……あ、うん。大……丈夫」
大丈夫?本当に?
3月14日の文字が目に入る。
あの日の真月は何処かおかしくて、普通じゃなくて。
決して『いつも通り』のやり方じゃなかった……。
カレンダーの真っ白な間隔。
吐き気のような胸のつかえ。
考えれば考えるほど、正解に近づいていく気がする。
……どうしよう。真月。
どうすればいい?
会議に出掛けた真月は部屋にはおらず、ましてや会社でそんな相談出来るはずもなく、ひとまず私は仕事を再開させるために席についた。