太陽と月の物語
失恋した。
恋人の親友で、親友の恋人だった人に……。
決して、関わるはずのなかった太陽と月。これでいい。月が輝く場所は太陽の隣じゃないから。
「部長。少し宜しいですか」
逃げ出したその足で部長を呼び止める。
……卑怯なことかもしれないけれど。
真月と宮端さんが幸せになるのを黙って見るほど、私は強くない。いつかどこかで、二人の幸せを邪魔してしまうかもしれない。
「部長。私、会社を辞めます」
部長はびっくりした顔をして、私を引き止めてくれた。誰だって代わりが効くただの事務員なのに、こうして引き止めてくれるのは光栄だ。
だけど、私の決意は変わらない。
「……寿退職とか?」
「いえ。そういう訳では……」
「じゃあ、転職?」
まさか、失恋だなんて言いたくない。
「……いえ。一身上の都合です」
便利な言葉だ。
詳しく話したくない事情を一言でまとめてしまえる。
部長も私が言いたくないことを察知してくれたのか、それ以上の追求をしてこなかった。
「引き継ぎは宮端さんにしようと思います。彼女は優秀な事務員ですから、私以上の活躍をしてくれます」
「送別会は派手にやろうな。企画部の太陽が居なくなるとみんな寂しがるぞ」
送別会の話は丁重にお断りした。
父の日企画も最終調整に入り、次は夏企画も本格的に動き始めなければいけないところだ。私なんかを送り出すために時間は取らせたくない。
「あと、私が退職する日まで誰にも内密でお願いします」
部長はやっぱりびっくりした表情をしたが、了承してくれた。