太陽と月の物語
翌日。
私は心くんと麻子のお墓まいりに来ていた。
命日でも何でもない。
ただ会いたくなった。
誰にも相談出来ない今の現実を一人で抱え込むのは限界だった。
二人の墓地は同じ敷地内にある。先に入り口から近い心くんの方のお参りをすることにした。
お花はまだ綺麗だったので簡単にお掃除をしてお線香を立て、しゃがみこんだ。
もう会えない恋人に語りかける。
「……心くん。ごめんなさい」
真月のことを好きになってしまいました。
真月の子どもを授かりました。
真月が……好きな人を見つけたみたいです。
仕事を辞めることにしました。
私はこれから……どうすればいい?
芽生えた命を『産まない』と選択するということは、その命を殺めるということ。
だからといって、母になる覚悟なんてない。
「……私なんかが、産んでもいいの?」
コツンと背後で足音がした。振り返ると、うちの母ぐらいの年齢の女性が立っていた。
「貴方は……心の知り合い?」
女性の言葉に気づく。この人も心くんのお参りに来たのだと。
スプリングコートに身を包み微笑んだその笑顔に覚えがある。目尻にいっぱいのシワを作る人を私は知っている……。
それは私が初めて好きになった人。その笑顔に恋に落ちたんだ……。
女性が何か思いついたように表情を明るくした。
「もしかして……朝陽ちゃん?」
「……知っているんですか?」
「心が撮った写真なら何度も見たわ。初めまして……かな?心の母です」
やっぱり……!心くんのお母さん。
笑い方がそっくりだと思った。
私は慌てて立ち上がり、頭を下げる。
「は、初めまして。春川朝陽……です!」
「ふふ。初めまして。写真は中学のときのものしかなかったけれど、美人さんになったのね」