太陽と月の物語

涙が引いた頃、ゆっくり話したいから、お茶でもしましょうと言われ、近くの喫茶店に入った。

幼い頃からずっとある喫茶店。でもここで暮らしていた中学生の私には敷居が高すぎて入れなかった場所だ。

「ハーブティーは飲める?ここのハーブティーはノンカフェインなの」

私が頷くと心くんのお母さん、真紀子(まきこ)さんはニコリと微笑み、ハーブティー二つを注文してくれた。

「朝陽ちゃん、今妊娠しているんでしょう?」

お水を飲みながら、真紀子さんは核心をついてくる。

……この人になら話してもいいかなと思った。

「……してます。今、8週目です」
「悪阻は?」
「そこまで酷くないと思います。吐いたことはないし、ただ胃が重いんで食欲はほとんど湧かないですけど」

不安があるから余計なのかもしれない。これから、将来、どうするべきか、自分がどうなるのか、思いつかないから。

「“私なんかが産んでもいいのかな”って……言ってたでしょう?悩んでいるの?」

やっぱり、聞かれていたんだ。心くんに尋ねた私の独り言。
だから、真紀子さんは私が何も言わなくても妊娠に気づいた。
喫茶店に入って、定番のコーヒーではなく、あえてノンカフェインのハーブティーを勧めたのもそのためだろう。

「……不安なんです。産む選択をして、もし私に何かあって、この子だけが残されたら?この子はこれからどうやって生きていくの?って……考えれば考えるほど、正解が分からなくて……」

姉は出産で亡くなった。
身体が悪かった訳でもないのに。

出産って命懸けなんだって知っているから、簡単に決断できない。
私が命を落とすのはいいとして、残された子供に苦労はさせたくない。

「朝陽ちゃん。お腹の子のお父さんは……」
「妊娠を伝えるつもりはありません」
「いいの?本当に?それで、朝陽ちゃんは後悔しない?」

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