太陽と月の物語
麻子から実際に彼氏を紹介されたのはその3日後のこと。
「朝陽〜!彼氏の八幡真月くん!」
麻子の隣に立って軽く微笑みながら頭を下げてくれた男子こそ、真月だった。
陸上部の彼はスポーツ刈りの短い黒髪、きちっと学ランのボタンを止めていた。真面目そうだけど、顔立ちは整っていて、とても同い年とは思えない大人っぽさを持っていた。
「春川朝陽です」
「八幡真月です」
今から部活に向かおうとするところだったようだ。軽く頭を下げただけ。
「あとで、練習見に行くね!」
「恥ずかしいから来るなよ」
麻子がそう言うとぶっきらぼうに彼は言いすてる。麻子から目を逸らしているのに、私の方から見える横顔の口元がニヤついていた。麻子は愛されているようだ。
「おう、真月!先行ってるぞ!」
彼の後ろから男子生徒が追い越していった。
「待てよ、心(こころ)。今行くから」
真月の声に反応した心と呼ばれる男子生徒は、足を止めてくるりと振り返る。そのとき、私とその子の目が合った。それはもう、ばっちりと。
目が合うなんて思ってなくて慌てた私とは裏腹に、彼は軽く頭を下げてくれた。私も同じように頭を下げると、彼の目が細められて笑った。
目尻に幾つもシワが刻まれた印象的な笑顔だった。