太陽と月の物語
朝礼を終えた俺は部長を会議室に呼び出した。
「……春川さんの退職の理由は何だったんでしょうか」
一事務員の退職を気にする俺の珍しい姿に部長はおや?と眉を上げる。
『来るもの拒まず、去る者追わず』
それが俺のスタンス。女性関係も仕事関係でもそれは変わらない。
ただし、例外は一人。
朝陽だ。
15年。
俺が縋りついたあの女は、俺の心をいとも容易く揺さぶってくれる。
「僕も詳しいことは聞いていないんだ。『一身上の都合』だと言っていたが、詳しくは話したくなさそうだったから聞けなかった」
「……そうですか」
「『太陽と月』の相棒がいなくなるとさすがの君も寂しいのかい?」
……寂しい。
そうなのかもしれない。
アイツが誰かと幸せになって、いつかは俺の側を離れるかもしれない。
その可能性は心の何処かにあった。
俺の束縛に、依存に、その細い体が、脆い心が潰される前に、そうなって欲しいとさえ思っていた。
だけど、いざ、本当に突然いなくなると……。
心にぽっかり穴が空いたような。
そうまるで、アサや心を失ったときのような虚無感に包まれる。
「そうですね、寂しいです」