太陽と月の物語

「八幡主任。少し宜しいですか」

昼休み。
部下の宮端さんに呼び出された。

宮端さんは今年入社してきた女性事務員だ。朝陽が指導担当をしてきたが、テキパキ働く優秀な社員だと部長も一目置いている。

「どうした?」
「春川さんのことなんですが……」

囁くように告げた宮端さんに、会議室に行くように言った。
昼休みで人が少ないとはいえ、朝陽の話はあまり公に出来ることではない。

「宮端さん。春川が退職した理由知っているのか?」

部長の話だと朝陽の仕事は殆どが宮端さんに引き継がれたらしい。もしかして、宮端さんにだけはこっそりと退職理由を告げていたりしないだろうか。

一縷の望みをかけて尋ねたのに、宮端さんはかぶりを振るばかりだった。

「私が尋ねたかったんです。八幡主任なら何か聞かされているかなと……」

宮端さんは俺や朝陽と同じ中学で、アサの従兄弟。
前に喫茶店で一服していたときに、たまたま居合わせた宮端さんにそう教えられた。

言われてみれば年下の可愛い従兄弟がいるんだと中学時代、アサに教えられたことがある気もする。

「宮端さんにほとんど仕事の引き継ぎをしていたから、君なら聞いているかと思ったんだが……」
「私は特に何も……。私に仕事の余裕が出来たから、新しい仕事を任せてもらえたのだとばかり……」

宮端さんは朝陽のことを慕っていたから、少し悲しそうに肩を落とす。
喫茶店で相席したときも、朝陽の仕草や癖なんかを事細かに教えてくれて、俺を笑かしてくれた。

「そういえば……春川さん、ここ最近、体調を崩していたみたいでした。そのせいとかじゃないですよね……?」
「……体調を?」

病気とかじゃないよな?
そういえば、最近の朝陽は痩せていた気がする。

なぁ、朝陽。
何があった?
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