太陽と月の物語
『真月……。私を身代わりにすればいい』
呼べばいつでも来てくれた。
ラインをすれば、返事をくれた。
15年間もの間、恋人にする訳でもなく突き放す訳でもなく、ただ縛り付けていた。
あいつの涙を見たことがない。
そのかわり、幸せそうな笑顔すら見たことがない。
いつも淡々と料理を作り、掃除をしてくれて、俺が抱きたくなったら、惜しみなく体を差し出してくれた。
ホワイトデーのあの日。
欲望のままに抱いた俺をあいつは叱るどころか、心配してくれていたのに……。
「俺、朝陽に甘えていた」
「そうだな。お前はずっと朝陽ちゃんに甘えていたな。夕陽もそのことをずっと怒っていたさ」
将大さんに認められて俺は項垂れる。
「俺はお前がどれだけあの事故に苦しんでいたか知っているから、今更何も言わない。大切な人を失う辛さは俺も知っているからな。
……これだけ確認させてくれ。15年間もそばにいた朝陽ちゃんはお前の中で他の都合のいい女と同列か?」
将大さんの問いに俺は間髪入れずに反論する。
「そんな訳ないです。朝陽は他の誰よりも大切で……」
「それだけですか?じゃあ、前にあったとき、どうして俺の目の前で朝陽を誘ったんですか?」
俺の言葉に被せるように、今度は晃さんが口を開いた。
『朝陽。明日、20時な』
朝陽を口説き落とす宣言をした晃さんの目の前で、俺は朝陽を縛りつけるように誘った。
朝陽に行って欲しくなかった。
だけど、やって来た朝陽は晃さんの香水を身に纏っていて、そんな朝陽を風呂場に連れて行き……我も忘れるほど、強引に抱いた。
その意味……その理由。そんなこと決まっている。
「……朝陽が好きだから。独占欲が湧いた。誰にも奪われたくなかった」
素直に認めたことで、胸のつかえが取れる。
これが俺の偽らざる本心なのだと気づいた。
「よく認めた!」
「本当、じれったいですね!」
「痛っ!!」
将大さんと晃さんから、肩を強く叩かれた。素直に認めた俺の本心は、とっくに2人にバレていて、俺がはっきりと言葉にするのを待っていたようだ。
「本当に朝陽にしろ真月さんにしろ、不器用ですよね」
「こいつらが器用なら15年も経つ前にお互い相手を見つけるか、当の昔にくっついてるよ」
「でしょうね」
2人には散々笑われた。
だけど、2人も朝陽の行方を探すことに協力してくれることになった。